「自分は単なる女装趣味だと思っていましたが、割り当てられた性別に違和感があるのかもしれない、と」
それまでは性別違和という概念さえ知らず、自分が何者かわからなかったのだ。
家族へのカミングアウトに至ったのはドラマから3年後、38歳のときだった。カバンに入れていた女性用の下着を、博子さんに見つかってしまう。浮気を疑われ、「それは私のものです」と重い顔をして答えるしかなかった。
なぜ結婚後に気づくことがあるのか。GID(性同一性障害)学会理事長で、岡山大学大学院の中塚幹也教授は「出生時に割り当てられた性への違和感を覚えるタイミングは人それぞれです」と言う。
例えば、ランドセルや学校の制服を選ぶとき、違和感や嫌悪感を抱くことで、割り当てられた性別と自分のアイデンティティーは違うのではないかと気づく。
ただ、子どもの頃は違和感が強くなくてやり過ごす人も。それが、大人になって夫や妻となり、性別による役割を考えさせられることが、気づくきっかけになることもあるという。
「その人が気づいたタイミングが、結婚後だったということだと思います」(中塚教授)
(編集部・井上有紀子)
※AERA 2023年1月23日号より抜粋