大漢語林(大修館書店)には、養生とは「生命を正しく養うこと」とあります。この「生命(いのち)」という言葉こそが養生にとってのキーワードです。自らが持っている生命のエネルギーを自らの力で高めていくことが養生なのです。そして攻めの養生では、生命のエネルギーを日々、高めつづけて死ぬ日を最高にします。その勢いで死後の世界に突入するのです。

 ですから、養生には健康法とは違ったニュアンスがあります。健康法は今の健康を維持するために行う方法で、大事なのは現状です。養生はもっと未来志向なのです。内なる生命を将来に向けて育てていくのです。

 こういう養生はホリスティック医学にとって、欠かせないものです。ホリスティック医学ではからだ、こころ、いのちの面から人間をまるごとみていきます。からだに対しては主として西洋医学が有効です。こころについては、心理療法もありますが、何より治療者が患者さんに寄り添うことが重要です。では、いのちはどうでしょうか。西洋医学はいのち(生命エネルギー)を視野に入れていません。東洋医学などの代替療法には、いのちに関わるものがあります。そして、養生こそが、自らの生命のエネルギーを高めるという意味で、まさにいのちに直接、向き合っているのです。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2022年4月29日号

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