AERA 2022年5月2-9日合併号より
AERA 2022年5月2-9日合併号より

Ayase:僕は、小説をあまり読まずに育ってきた人間なんです。恋愛ものに対して少し斜に構えていたところもあったんですけれど、「ヒカリノタネ」は口語体が多くて読みやすいし面白くて、読み終わった時には拍手していました。読んだ時期、たまたまYouTubeで“タイムトラベルは物理的に可能か”を検証した動画を見ていて、タイムトラベルそのものに興味もありました。小説をかなり近くに感じた体験でした。

水彩画のパレット

ikura:私は主人公の坂下と似たような経験をしたことがあるんです。中学のころに同じ人に2回告白して、その後、相手が告白してくれた。だから、運命的なものを感じました。でも、その恋はあまり自分の中で良い思い出ではなくて。「ヒカリノタネ」を読んで、傷痕に思える恋だったとしても、その経験によって強くなれたり、増えた価値観がある。主人公がひとりの人を思い続けて告白し続けたからこそ、今の自分があるというところにすごく共感しました。

 読み終えた時に想像したのが、水彩画の絵の具のパレットでした。最初は自分の好きな色だけを使っているけれど、やがて普段使わない色にも手を出して、いろいろな色を混ぜていく。そのさまが、たくさんの経験が混ざって今の自分を形成している人生みたいだなと。そんなふうに振り返ることもできた大切なお話になりました。

森:すてきな話です。私は小説を書くのに時間がかかるんです。でも、今回はあっという間に書けました。立ち止まらずに一気に楽しく書ける作品は20年に1度ぐらいで、前回が『カラフル』でした。当時「こんなことってあるんだ」と驚いたんですが、その後はまた悩みながら書くスパンに入ったので、あんなことはもう二度とないと思っていました。でも、今回は最初から自分の中に物語が勢いよく入ってきて、それを私は追いかけるだけみたいな状況でした。

ikura:ちょっと泣きそうになりました(笑)。YOASOBIとのコラボレーションでそんなふうに思っていただけたなんてすごくうれしいです。

暮らしとモノ班 for promotion
2024年の『このミス』大賞作品は?あの映像化人気シリーズも受賞作品って知ってた?
次のページ