4人の直木賞作家が「はじめて」をテーマに書いた小説を、YOASOBIが楽曲化する斬新なコラボプロジェクトが進行中だ。小説と音楽を切り結ぶうえで、何を考えたのか。AERA 2022年5月2-9日合併号から。
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——珠玉の小説から音楽が生まれる──。本好きも音楽好きも心が沸きたつような、新しい試みはどう生まれたのか。
Ayase:YOASOBIは“小説を音楽にするユニット”としてスタートして、さまざまな方とコラボをしてきました。結成当初から作家さんと大きなプロジェクトをやりたいという構想はあったんです。期が熟し、1年前ぐらいに皆さんと一緒にやるということが決まって、打ち合わせを重ねていきました。
森:最初この企画を聞いた時は、あまりにも大きなお話なので「実現するのかな?」と思いました(笑)。こうして実現して、小説を曲にしていただくということは初めてですごく励みになりましたし、普段あまり本を読まない方たちに興味を持っていただけるのではと思いました。
小説って面白いんだ
森:YOASOBIさんの曲には、歌詞の力の強さとメロディーの美しさを感じていました。美しいメロディーに言葉が乗った時、言葉ってこんなに説得力が増すんだ、と。ikuraさんの透明感のある歌声も印象に残っています。
ikura:私は小さいころ、実は活字が苦手だったんです。小学5年生の時に姉が森さんの『カラフル』を薦めてくれて。読んでみたら、「小説ってこんなに面白いんだ!」と夢中になって、1日で読み終わってしまいました。私にとって初めて1冊しっかり読み切った本で、小説の世界に連れていってくれた作品でした。その作者である森さんとご一緒できて、本当に感無量です。
森:ありがとうございます。私は児童文学からスタートして、デビュー当初からあまり本を読まない方にも読んでもらえる本が書きたいと思っていたので、とてもうれしいです。
——森さんが執筆した「ヒカリノタネ」は、“はじめて告白したときに読む物語”だ。
森:最初は「はじめて人を好きになったとき」という設定で書こうと思ったんですが、島本(理生)さんが同じテーマで書かれると聞いたので、違う方向性にしようと。長い片思いの物語を書きたいなと思い、告白という切り口が浮かびました。数年前に書評家の方から「タイムトラベルものを書いてみない?」と提案されたことがあったのですが、当時は心の準備ができていなかった。今回はせっかく“はじめて”というテーマをいただいたので、私も初めてのことに挑戦したいと考え、片思いとタイムトラベルを足してみました。
書いている間、ずっとikuraさんの突き抜けた透明感のある声が頭の中で流れていました。曲になることを意識するというより、私が私の仕事をすれば、きっとAyaseさんはAyaseさんの仕事をしてくださるだろうと思ったので、自分の小説を完成させることに集中しました。