
「あそこにいけば坪内さんがいるかもしれないな、とふと頭に浮かぶ。会っても決して親しく会話ができるわけじゃないし、場合によってはおっかないんだけど(笑)。酒場に行くのは、そういう数々の人の顔が見たかったりするからなんだと、この2年で改めて思いました」
酒との出会いは大学時代。出版社や広告会社を経て30歳で独立し、酒にまつわる著作は20冊を超える。
「35歳でバーに置く雑誌の記者をやってから、バーや小さなのれんだけの店にも行けるようになった。寿司屋にも勇気を出していくと店の作法を教えてくれる大将もいる。聞き出すコツは褒めること。『やっぱり職人さんは指先がすごくきれいですね』とか言うと『それほどでもねえよ』って仲良くなれる」
最近、若者が酒を飲まないと言われる。しらふがクールだとする“ソバーキュリアス”なる言葉も登場。
「ちょっと寂しいなと思うことはありますよ。新幹線でスーツ着た若者が甘そうなカフェオレを『チュー』とか飲んでると『そこはビールだろ!』と思うけど(笑)。でも最近は酒場で若い人と話すのも楽しい。『なになに? おじさんにも聞かせて?』って」
大竹さんにとってお酒とは「場」であり「文化」なのだ。
「人付き合いって財産ですよね。僕の場合はそれが酒場で紡がれている。ページをめくりながら『ああ一杯、飲みたいなあ』と思ってもらえたらうれしいですね」
(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2022年5月2-9日合併号