オンラインでのコミュニケーションでは、とかく「要件のみで終わらせる」ことが重視されがちで、雑談がしづらいということも、フルリモートで働き始めてから分かったことだ。オンライン会議も、予定時間内に会議を終えることが前提でスタートされるため、タイムキーパー役が一人一人の発言時間を管理する。まどろっこしい説明を始めてしまうと、「要点を整理してからチャットで連絡して」と言われてしまう。よく言えば効率的、悪く言えばあまりにドライなコミュニケーション。Aさんは次第に、こうした“リモート流儀”に辟易する場面が増えていった。
これまでの環境であれば、こうした時にはガス抜きに、同僚と飲みに行って愚痴を発散させたいところだ。しかしフルリモート環境ゆえに、同僚はオンライン上にしかいない。入社1年が経った今も、気軽に愚痴を言えるような相手は会社にいないという。
無論、マイナス面ばかりではない。通勤に時間を取られることもなく、自宅で仕事ができる快適さもある。家族と一緒に自宅で朝昼晩と食事を共にすることができるし、自然豊かな環境で過ごせるメリットも大きい。都会に比べて物価の安い地方で、東京の給料水準の年収を稼ぐことができるのも大きな魅力だ。
ただ入社から1年経ち、入社前は良いことばかりに見えたフルリモート職にも、向き不向きがあるということが分かってきた。Aさんはすぐに仕事を変えるつもりはないが、並行して地元企業の求人もチェックするようになった。2人目の子どもが保育園に通い始めたら、地元企業に転職することも選択肢の一つだという。
「フルリモートで働いてみて、人と直接やり取りできるメリットは、やはり大きいと感じます。それにせっかく地元に戻ったのに、日々コミュニケーションを取る相手は他県の人ばかりというのも……と思うようになりました。金曜の夜に、同僚と気軽に飲みに行く楽しみも、僕にとってはかえがたい日常かもしれないとも感じます。転職はまだ検討段階ですが、結局はフルリモートを辞めるかもしれません」(Aさん)
フルリモート求人の誘い文句にある「基本出社ナシ」は、もちろんいいことばかりではない――。(松岡かすみ)
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