テレワークが広がる中、居住地を「国内であればどこでもOK」とする企業は少しずつ増えている。「基本的に出社しなくて可」という求人は、IT系の業種に多く見られる。背景には、IT人材の不足が指摘される中、柔軟な働き方ができることを求職者にアピールし、人材の獲得競争で優位に立ちたいという企業側の狙いもある。

 Aさんは、そうしたIT企業数社のフルリモート求人に応募。結果的に、二度のオンライン面接とリアルの場での最終面接を経て、東京に本社があるIT企業で、フルリモート勤務可の職に就くことができた。入社して最初の2週間は、研修や手続きを兼ねて本社に出社。入社3週間目には九州にある自宅で、リモートワークをスタートさせた。

 晴れて手に入れたフルリモート環境。だが入社してほどなく、オンラインでのコミュニケーションの難しさにぶち当たることになる。例えば、リモート環境では、同僚などに“ちょっとしたこと”が意外と聞きづらい。「電話で聞いた方が早いだろう」と思い、先輩社員や同僚の電話を鳴らすと、「電話だと作業が中断してしまうので、質問はなるべくチャットでお願いします!」と返ってくる。9割方の社員がリモートワークというAさんの勤務先では、会議以外のコミュニケーションは、基本的にチャットなのだ。

写真はイメージ(GettyImages)
写真はイメージ(GettyImages)

 仕事の案件ごとに、それぞれの担当者で構成されるチャットルームが開かれており、定期的に上司が各ルームで繰り広げられている会話を“徘徊”し、チェックしてまわるのも常だ。時折、上司から「ルーム全体の熱量が低い」「質問するときはポイントを分かりやすく」「即レスで対応すること」などと指摘の声が飛んでくる。各チャットルームは、通知機能はないものの、全社員が見られる状態のため、そこで叱責されると“公開処刑”とも言える事態になる。

 テキストでのコミュニケーションは、簡単な内容であっても意外と時間がかかるものだ。特に入社して間もないときは、ごく簡単な内容であっても、言葉のニュアンスに気を遣うことが多く、返信を書くにも時間がかかった。Aさんが返信を書く前に、チャットルームはどんどん次の話題に移っていき、ネット空間で置いてけぼりにされている感覚が生まれた。

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