もっとも、バレなければいいというワケでもない。

「夫の収入が減ったり、病気になったりして、ローンの支払いが滞ることもありえます。あるいは、夫に新しいパートナーができて、支払いを渋るようになることも考えられる。住宅ローンの延滞が続けば、いずれ家が差し押さえられてしまうことにもなりかねません」

 さらに恐ろしいのは、名義人である夫は、自由に家を売却できるということだ。

「夫が新たなパートナーとの家が欲しくなり、もう一度、家を買おうとすることはよくあります。その場合、妻が住んでいる家に住宅ローンが残っていると、新たに金融機関から住宅ローンを借りることはできません。そうすると夫としては、妻と子どもが住んでいる家を売却したいと考えるようになります。もし住んでいる妻が住宅ローンを払っていたとしても、名義人ではないので、売却を拒むことはできないのです」

 こうしたリスクを避けるためには、どうしたらいいのだろうか。入江さんは「まずは知識をつけること、そして専門家に相談をしてほしい」と呼びかける。

「個人で金融機関に相談すると門前払いされてしまうことも、離婚住宅アドバイザーなどの専門家が間に入って交渉することで結果が変わってくるのは事実です」

 金融機関と交渉する前提として、住宅ローンを借り換えた妻にローンの支払い能力があると証明する必要がある。

 入江さんら専門家は、丁寧にヒアリングをしながら、妻の支払い能力を確かめる。実家の援助がある、貯金がこれだけある、養育費がこれだけもらえるなど、仕事で得られる収入以外の情報も金融機関の担当者に伝えて信頼を得ていく。

「たとえば、今は収入が少なくても、少しずつステップアップする道筋を見つけて、金融機関側に示していくことも大切です。急がば回れ。じっくり準備をすることで、必ず道は開けます」

 ただでさえストレスフルな離婚。持ち家問題で余計な気苦労を背負い込まないためにも、まずは本などで知識を得る、必要に応じて専門家に相談するなどして、かしこく乗り越えたい。(上條まゆみ)

◎入江寿(いりえ・ことほぎ)
一般社団法人共有名義不動産問題研究所、離婚住宅ローンアドバイザー・離婚カウンセラー。23歳で結婚し、4年後に離婚。34歳で再婚し、年子で女の子を産み、母になる。43歳で離婚。新卒で総合商社に就職後、さまざまな仕事を経験した。50歳で、フォワード98株式会社から声がかかり、離婚に関する不動産部門の立ち上げスタッフに。それから5年間で約3000人のカウンセリングを行ってきた。

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