「あくまで人間らしい心情と弱点をそなえた人間が、その感じ易さ、傷つき易さのゆえになお一層切実にたえず新たに『不動心』に救いを求めて前進して行く、その姿の赤裸々な、いきいきとした記録がこの『自省録』なのである」
我々もいま、コロナの蔓延や戦争の勃発といった世界の不安にさらされています。だからこそ、「不動心」を語る『自省録』が読まれるのでしょうか。
『自省録』第2巻の9にこうあります。
「つぎのことをつねにおぼえておくべし。宇宙の自然とはなんであるか。私の(内なる)自然とはなんであるか。後者は前者といかなる関係にあるか。それはいかなる全体のいかなる部分であるか。また君がつねに自然──君はその一部分である──にかなうことをおこなったりいったりするのを妨げる者は一人もないということ」
これは私が虚空に対峙するときに、いつも感じていることです。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2022年6月3日号