西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは『自省録』。
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【不動心】ポイント
(1)困難な時代の皇帝アウレーリウスが書いた『自省録』
(2)アウレーリウスはストア哲学のいう不動心を求めた
(3)我々も不安にさらされ『自省録』が読まれるのかも
ローマの哲人皇帝マルクス・アウレーリウス(121~180)の著書『自省録』(岩波文庫)が最近、売れていると聞いて、読んでみました。
まず訳者が神谷美恵子さんなのがいいですね。私は彼女が書いた『生きがいについて』(みすず書房)が大好きなのです。
神谷さんはこの『自省録』の巻末に解説も書いています。それによると、アウレーリウスは幼少のころから優れた資質を持っていたようです。文学、音楽、舞踊、絵画などを学び、やがて最も、哲学(ストア哲学)に心を惹かれました。
祖父がローマ総督といった重職についていたアウレーリウスは当時の皇帝に可愛がられます。そして次期皇帝の養子として迎えられます。将来、皇帝になることが約束されたのです。しかし、本人は読書と瞑想に耽(ふけ)ることが何より好きで、皇帝の責任を背負うことは決してうれしいことではありませんでした。
不幸なことに彼の在位中には、ほとんど絶え間なく戦争が続きました。また河の氾濫、地震などの災難に見舞われ、ペストも蔓延しました。
こうした困難に立ち向かいながら、在位中、仁政により万人の敬愛を一身に集めました。すぐれたローマ皇帝として歴史に残っているのです。
アウレーリウスを支えていたのはストア哲学です。神谷さんの解説によると、ストア哲学は物理学、論理学、倫理学の三つから成り立っていて、特に重んじられたのが倫理学でした。その倫理学では、人間の幸福と精神の安定は徳からのみ来ると考えられていたそうです。徳とは宇宙を支配する神的な力に服従し、自然のなすことを受け入れることであり、また何ものにも動かされぬ「不動心」に到達することだというのです。神谷さんはこう書いています。