
──連載を本にまとめるとき、エピソードを加筆していただきました。
妻の料理のことや引っ越しのときにアジア系の女性に花をプレゼントした話などを盛り込みました。今回のルポは私自身の格好悪いことも含めてあるがままに書こうと心がけていたんですけど、そうすると妻はとんでもないだけの人に見えると思ったんですね。大変なこともいっぱいあったんですけど、普段は笑ったりバカを言ったり、人として当たり前のやさしさや温かさを持った人間ですから。「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」というサイトを見て、私たちが書いてきた薬物事件の報道って、その人を人間として描いてきただろうかと思ったんですね。このルポも身近な人のことをちゃんと人間として書いているかという問いが自分に刺さって、それでいろいろな記憶がよみがえってきて、エピソードを加えたんです。この本が、似たような状況で困っている方の参考になったり、精神科医療を考えるきっかけになったりしたら、うれしく思います。それは妻の強い願いでもあります。
(聞き手/四本倫子、構成/本誌・堀井正明)
※週刊朝日 2022年6月10日号