──厳しい状況で周囲の方に助けられた経験を書かれていますが、無理解に苦しんだことについてお聞かせください。

 確かに私は周囲との関係ではかなり恵まれていたと思いますが、苦しんだこともあります。一つはアドバイス、助言をしたがる人が多いことです。情報を与えてくれるだけならいいのですが、本当に困っているときの助言は暴力に等しいときもあるんです。例えば「力ずくで酒をやめさせろよ」「入院させればいいじゃないか」という類いです。強制的な入院が本人に心の傷を残してその後の治療を難しくすることもあるというのをわからずにおっしゃっていて、助言してもらいながらひどい言い方かもしれませんが、一種のマウンティングではないかと思うときもあります。助言する側のほうがなんとなく優位に立てるという心理があるのでしょうね。逆に本当に力になってくれた人たちというのは、目の前にいる永田が大変そうだ、力になってあげたいと、わからないことをわかった上で接してくれるんです。摂食障害や依存症のことがわからなくても、力になりたいというスタンスを示してくれるだけで気持ちが楽になることも多いんです。同僚で、発達障害の子どもを育てながら、そのことを記事に書いている記者がいるんですけど、そういう仲間たちとお互いのぐちを言い合ったりするのも、すごく力になりました。

──精神科医療など制度的な問題について、どのようにお考えですか。

 日本の精神科医療がトラウマを重視していないと感じます。精神疾患の大元の部分にトラウマがある場合、そこにきちんとアプローチしないと、様々な悲劇がこれからも起こると思います。問題の根本に薬物治療と入院治療だけに頼っている現状があるような気がします。精神科の場合、受診自体を敬遠するケースは残念ながらすごく多いんです。これは本人のせいではありません。症状の特性で自分が病気だという認識を持ちにくいこともありますが、一つは社会全体の理解が少ないこと。「そんなところに行かされたら終わりだ」と。しかし精神科医療の現状を理解して嫌がっているという側面もあると思うようになりました。いったん入院したら長期入院させられてしまう。「医療保護入院」が適用されれば本人の意思とは別に入院させられる。本人からしたら拉致されて隔離される経験ですよね。私もこの制度を散々利用してきたわけですが、そこの迷いや自戒も含めて、この本を書きました。

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