コロナ前に訪日した欧米人が日本人のマスクの多さに、「みんな病人かと思った」というから、やはりマスクは、他人にうつさぬためにかけるものというのが常識だったのだ。
かけたい人はかけて、かけたくない人はかけない。自己責任とは言っても、自分が咳が出る、くしゃみが出る、風邪気味などの場合は、他人にうつさないためにかけるのは当然だ。社会が元にもどるということは、まず他に迷惑をかけない、うつす可能性がある人がまずマスクをするという原点にもどることだと思う。
オーケストラの楽員を見ると、弦楽器の奏者はかけている人、いない人さまざまだ。ベートーベンの第九の合唱付きでは、合唱団員が苦肉の策で、それぞれが違う布を口の前にぶら下げているのがおかしい。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年6月10日号