内見から1カ月後に購入契約。戸建ての売却は、マンションへの住み替えを考え始めたころに、査定を依頼した不動産屋にお願いすることにした。Aさん宅は郊外ではあるものの、最寄り駅から徒歩10分程度。隣駅に人気の学校があり、子育て世帯の需要がそれなりにあるエリアであったことも幸いだった。半年ほどで買い手がつき、戸建てを売却した資金に現金を追加する形で、住み替えることができた。追加費用は1千万円ほどかかったが、不動産屋いわく、「駅近の築浅物件で、資産価値を維持しやすいだろう」という。
「戸建てを手放すことは寂しくもあったけれど、年をとって住むには不便さも大きかった。あのとき思い切って決断してよかった」(Aさん)
今、Aさんのように高齢期に住み替えを選択する人が増えている。三井不動産リアルティが昨年、首都園で住み替えた人を対象に行った調査によると、65歳以上の住み替え理由の1位は「自身の高齢化による将来に対しての不安」(24.4%)。住環境は、病院や商業施設から近い利便性の高い立地を選ぶ人が多い傾向だ。
さらに、住み替え時に物件の資産価値を意識したかという問いには、全体のおよそ3分の2(65.9%)が「意識した」と回答。住まいを資産と捉え、価値を維持できる物件を選ぶ傾向が高まっているのだ。首都圏を中心に、不動産の購入、売却など、これまで6千件を超える取引を行ってきた不動産コンサルタントの後藤一仁さんは言う。
「これまで住んだ家の売却費用を元手に、利便性の高いマンションへ住み替えるシニア世代が増えています。60代はもちろんのこと、70代前半で住み替える人も少なくありません」

後藤さんによれば、「今は売却が有利な時期」。不動産価格が高騰傾向にある今、新築マンションの平均価格はバブル期を超え、過去最高を更新。こうした価格高騰の影響もあり、現在首都圏においてもっとも取引が活発なのは中古マンションだ。ここ最近は築浅物件のみならず、築30~40年の古い物件もよく動いているそうだ。加えて低金利も追い風となり、今は不動産が高く売れやすいタイミングだという。