名人戦七番勝負(AERA2022年6月13日号より)
名人戦七番勝負(AERA2022年6月13日号より)

■二十世名人に近づくか

 二十世名人の座を争うレースは、渡辺と佐藤天彦が3期で並んでいるが、渡辺が現在名人の座にある分だけリードしている。渡辺が永世名人の系譜に名を連ねるのはごく自然なことだ。

 しかし渡辺が楽に二十世名人になれると思っているファンや関係者は少ないだろう。というのは他でもない。あの藤井聡太が満を持して、いよいよA級順位戦に参戦するからだ。

 古いファンであれば、こうしたシチュエーションには既視感があるだろう。1993年、49歳にして悲願の名人位に就いた米長邦雄(故人)は、当時の「AERA」の記事によれば、就位式で次のようにあいさつした。

「一つ心配なことがあります。来年はアレが出てくるんじゃないかと」

「アレ」とは当時22歳、A級に上がったばかりの羽生のことだ。やはりというべきか。羽生は挑戦者となり、米長から名人位を奪い去っていった。

 渡辺が名人を防衛した直後の記者会見。当然のように、藤井のA級参戦について尋ねられた。

「それはもちろん、皆さん当然思うことでしょうけど」

 渡辺はそう笑っていた。

 将棋盤の升目の数と同じ81期の「盤寿」を迎える来期名人戦。渡辺が二十世名人に近づくのか。それとも弱冠20歳の藤井が史上最年少名人に輝くのか。そんなドラマチックな設定の七番勝負が見られる可能性は高い。

(ライター・松本博文)

AERA 2022年6月13日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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