そうして50歳になったとき、昔大河ドラマで見た、織田信長が「人間50年」と言って炎の中で舞うシーンがふと浮かんだんですね。信長やったらもう死んでる。そう思ったらなんでもできるな、後悔せんとこ、と思って二十歳のころ行きたかったNSC(吉本総合芸能学院)に入りました。

 卒業後、ピン芸人やアマチュア落語家・西天満亭どんぐりとして活動していて、ある落語大会で賞を頂きました。そのとき審査員の先生の講評で、「表現者のなかには『この人にしかないもん』を持っている人がいます。西天満亭どんぐりは、それがどこかにある」という言葉がありました。本当にうれしい言葉でした。そして、私は表現する人になりたい!と思いました。でもこの年で落語家さんへの弟子入りは難しい。それやったらお芝居の世界に挑戦してみようと考えたわけです。

「そんなん甘い」とか「年いってんのにいい加減にしとき」とか、色んな人から助言を頂きました。今まではそれを鵜呑みにしてたんですけど、50過ぎてからはあまり人の言うことを聞かなくなりました。言って頂くのはありがたいけど、私とその人では状況も考えも違うし、私の人生は私のもの。年を重ねてようやく分かってきました。だから55歳でお芝居の道に進む覚悟を決めたとき、思い切って携帯電話の番号を変えて、たくさんの友人と連絡を絶ちました。自分のほんまの気持ちを大事に生きようと思ったんです。

 1年間演劇学校などで学びました。そして57歳の冬。今泉力哉監督の映画を見に行ったとき、俳優募集のチラシを見つけたんです。そのときは関係ないなって思って戻しました。でも上映後、感動的な舞台挨拶の余韻に浸りながらロビーでサンドイッチを食べていたら、さっきのチラシがもう一度目に入ったんです。それが今見た映画の制作プロジェクトのチラシだとわかって、家に持ち帰ってすぐに応募しました。結果、合格して出演したのが「カメラを止めるな!」。まさか日本中で大ヒットするなんて夢にも思いませんでしたよ。映画を見たいと思ったから見る、お腹が減ったからサンドイッチを買う、食べようと思ってロビーに座る。感情のまま行き当たりばったり動いていたら今に繋がった。何がどこで起きるかわからんから、人生のカメラは止めるな!って思います。

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