毒ヘビによる咬症(こうしょう)事故では、マムシ(体長40~60センチ程度)が最も多い。
「マムシはあまり動かずにじっと待って、カエルなどの獲物を捕らえる待ち伏せ型の狩りをします。人が来ても逃げないことも珍しくなく、気づかずに踏んでしまい咬(か)まれることが多い。マムシの毒牙(どくが)の長さは約4ミリなので、登山靴や厚めのスニーカーを履き、長ズボンを着用すれば、事故予防になる」(西海氏)
咬まれたら即入院だ。マムシは「これ以上近づいたら咬むぞ」というサインを出すので、それを見逃さないことだ。
「マムシはいきなり咬むのではなく、多くの場合、警告行為を発します。鎌首を上げ、ガラガラヘビのように尻尾を揺らして落ち葉などを鳴らすので、絶対に近づかないことです。万一、咬まれたらすぐに救急車を呼んで病院にかかること」(大野氏)
沖縄に生息するハブはマムシと同じ蛋白(たんぱく)質を溶かす毒を持つ。だが、体長が100~200センチと大型のヘビで、毒牙が約15ミリと長いため筋肉まで届き、注入される毒量も多い。咬まれた部位が壊死(えし)し、後遺症が残る場合もある。かつては毒ヘビに咬まれたら「安静にして病院へ」と言われてきたが、西海氏は「それは昔の話。走ってでも一刻も早く病院にかかるほうが症状は軽く済む」と説く。
山道を歩いている時に足元から忍び寄るのが、ヤマビルだ。皮膚に咬みついて吸血する。
「吸血時にヒルジンという物質を出す。この物質には血液を固まらせない成分があるので、なかなか血が止まらない。出血量に驚くこともあるかもしれませんが、大事には至りません。傷口をよく洗い、ガーゼなどで止血しましょう。ヒルよけには、イカリジン成分が配合された虫よけスプレーが有効です」(西海氏)
昆虫では、ツチハンミョウ類やアオカミキリモドキ、ヒラズゲンセイなどは触るなど刺激するとカンタリジンという毒成分のある体液を出す。皮膚につくと、やけどのような水ぶくれができる。
“危険生物”たちから見れば人こそ侵入者。そのことを肝に銘じて、十分注意してほしい。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2022年7月29日号