著者は当時、現役の言論人ながら財団の理事となり、救済事業に奔走した。財団は、7割以上の元慰安婦にお金を受け取ってもらうなど、高い実績を上げた。にもかかわらず文政権は財団を解散させ、合意は骨抜きとなった。核心であったはずの元慰安婦に対する救済事業は事実上、止まったままだ。
これら慰安婦問題の支援団体や文政権のふるまいに鋭く切り込んだ本書ではあるが、注意すべきは日本側に何の問題もなかったかのように誤読してはならないという点である。
支配、被支配をめぐる過去の記憶は、時の流れとともに極端化していく。被害の記憶はどんどん大きくなる一方、加害側では問題をより小さく、あるいは事実自体がなかったかのようにとらえる言説が出てきて、和解はいっそう困難となる。著者があえて韓国側の問題点を中心に光をあてたのは、「日本に対する批判は韓国ではなく、日本のメディアと知識人がする」(本書「日本語版の出版にあたって」から)ことが妥当だ、と考えているからにほかならない。
言うまでもなく、日韓間の政治関係悪化の大きな原因となっているのは、慰安婦と徴用工という二つの歴史問題である。いずれの懸案も、日本側に賠償を命じた韓国司法の判決により、政府間の対立が深まった。
他方、同じ韓国の司法が、同種の裁判で確定判決が出た後でもまったく異なる判断をして、被害者の訴えを退けるケースも出てきている。
本書はそれらの司法判決を丁寧に追い、原告の主張などをつぶさに調べ、詳しく記している。また韓国立法でこれまでに多く出た歴史問題の解決法案なども詳述するなど、高い資料性もあわせもつ。
本書を読めば、韓国は「約束を守らない」といった単純な話ではなく、現実との間で苦悩する姿が浮かび上がる。それは本年3月の次期大統領選でも多少にかかわらず触れられる争点である。