筧千佐子被告 (c)朝日新聞社
筧千佐子被告 (c)朝日新聞社
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 京都、大阪、兵庫で2007~13年、夫や交際相手ら4人に毒物の青酸化合物入りカプセルを飲ませたとして、殺人罪などに問われた筧千佐子被告(74)の死刑が7月に確定した。拘置所で面会を重ねた記者が、「後妻業」を地で行った女性の素顔に迫る。

【写真】拘置所の筧被告から記者に届いたはがき

●青酸連続不審死事件
 3件の殺人罪と1件の強盗殺人未遂罪に問われた筧千佐子被告は、捜査段階では自白したとされるが、一審・京都地裁の公判では供述を二転三転させた。弁護側は一連の事件は直接証拠に乏しく、被告は認知症で責任能力もないなどと無罪を主張したが、一・二審ともに判決は死刑。最高裁も弁護側の上告を棄却し、死刑が確定した。

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「男前や。オトコマエ」

 最高裁判決を目前に控えた6月23日、大阪拘置所で2年ぶりに顔を合わせた千佐子被告(当時)は私の顔を見るなり、こう言って目を細めた。被告とは2017年の一審・京都地裁の裁判中から65回ほど面会を重ねてきたが、久々の再会で私が誰かを分かっていなかった。そこで刑務官に断り、一瞬だけマスクを口元までずらして顔を見せてみたのだ。

 被告はひざ丈ズボンに紺色のTシャツ姿。白くなった髪の毛は肩まで伸びていた。死刑が確定すれば、家族や弁護士以外とのやりとりは原則できなくなる。被告と話をする最後の機会になると思い、東京から駆けつけたのだった。

 私は人に「男前」と言われたことなど一度もない。会話の中で相手が喜びそうな言葉が自然と、反射的に飛び出してくるのがこの人の特徴だ。ほほえみながら「こうして若い男の人が訪ねてきてくれるとうれしい。元気が出るね」と言う。

 あるときは私を指さし、「おっ、良いネクタイをしているね。私は美術部だったから色のセンスが分かるんよ」と褒める。またあるときはアクリル板越しに私の顔をまじまじと見つめ、「先生は良い目をしている。裏表がない目や」。一審の裁判中には、私以外とは誰とも面会していないと言い、「先生は私が認めた人やから」と、さりげなくあなたは特別だとアピールしてきたこともあった。

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