まず自分が健康食品のカプセルを飲んでみせ、相手が興味を持ったところで青酸入りのカプセルを勧めたようだ。被告によると、間違って自分が青酸入りを飲まないように大小の袋を1枚ずつ用意する。「大きな袋に毒入りカプセルを入れ、小さな袋に入れたものを私が飲む」。コーヒーなどに混ぜるのではなく、カプセルを使った理由を問うと、「口やのどで溶ければ、おかしいとすぐに分かるじゃないの。胃の中で溶かそうと思えば普通はカプセルを使うでしょう」。被告なりに綿密に計画を立てた上での犯行だった。

 被害者はどのように死に至ったのか。被告は、カプセルを飲ませた後、「しばらく会話はできた」とまでは説明したものの、それ以上の質問には口をつぐんだ。私の顔を見てはいるものの、無表情で感情を読み取れない。アクリル板に近づいていたはずの上半身は後ろに下がっていた。

「苦しむ被害者を見て、怖いと思ったことは?」。そう切り出した私に、被告はしばらく黙った後、「……先生、それをよく私に聞きますね」とだけ言った。

 さっきまで冗談を飛ばしていた被告が、能面のような表情で私の目を見つめてくる。面会を繰り返す中で、唯一気味悪く感じた場面だった。

 最も不可解だったのは、被告から被害者への謝罪の言葉がまるで出ず、誰に対する殺害理由も決まって「差別されたから」と言うことだった。このときの被告は強い怒りをにじませ、「人種差別のようだった」とまで口走ったが、具体的な差別の内容を説明できたことはない。強い被害者意識を抱いていたのは確かだが、常識的に考えても、これから将来をともに過ごそうとする男性らが被告を差別するはずがないのだ。

 彼女の人生を繰り返し聞くにつれ、「差別されたの」という言い回しが、最初の夫、Aさんの親族に向けられたものとまったく同じだと気づいた。

 それは彼女の中で渦巻くマグマのような感情だった。「もし憲法で一人だけ殺しても良い人がいるのなら……」と親族の名前を挙げて興奮し、「この板をぶち割ってやりたいぐらいや」と両手の爪でアクリル板をたたいて、刑務官が制止しようとしたこともある。

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