こうした反応は私が男だから、というわけでは必ずしもないようだ。被告と面会したことのある女性には、「私も女やから、同性の方だと安心しますね」と喜んだという。このような態度は被告の体に染みついたものだ。

「私はおしゃべりが大好き。友達も多かったからどんな話もできるよ。エッチな話以外はね」。ちょっとした雑談でも話を合わせ、話題を展開させるのが得意だった。

拘置所の筧被告から記者に届いたはがき (c)朝日新聞社
拘置所の筧被告から記者に届いたはがき (c)朝日新聞社

 飛び抜けて美人でもなく、どこにでもいそうなおばちゃんにしか見えない。そんな彼女に多くの男性が魅了された理由を考えながら面会を続けてきたが、端的に言えば、一緒にいて楽しい気持ちになれたからに違いない。「後妻業」事件として有名になったが、必ずしも被告側から男性に猛アタックしたわけではなかったのだ。

 相手の良いと感じたことを率直に口にする、あらゆる話題に話を合わせ、冗談好きで明るい、細かいところに気がつく──。コミュニケーション力が高く、頭の回転の速さを感じることも多かったが、それは同時にこの人の調子の良さを表してもいた。

 千佐子被告は北九州で生まれ育った。幼い頃から勉強はできたといい、福岡県の進学校、県立東筑高校に進む。将来は国語の先生になるのが夢で、高校では九州大学への進学を勧められたが、父親に反対され断念。この悔しさは相当なもので、面会のたびに「大学に行っていたら違う人生があったはず」と口癖のように繰り返した。

 高校卒業後は大手銀行の北九州の支店に勤務。鹿児島県を旅行中、最初の夫となる大阪府出身のAさんと出会い、23歳で結婚する。だが、その後の生活は思い描いていたものとはかけ離れていたようだ。私との面会で、「最初の結婚が最大の失敗だった」と何度も繰り返した。

■カネの苦労続き 結婚を繰り返す

犯行に使ったとされるカプセル (c)朝日新聞社
犯行に使ったとされるカプセル (c)朝日新聞社

 Aさんの地元は綿織物が盛んな地域。九州から出稼ぎに来た「女工」や「織子」と呼ばれる若い女性も多く、親族には「うちのAが織子とできたように思われる」と結婚を反対され、「世間体が悪いとまで言われた」と被告は振り返った。

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