富士山(撮影:井村淳)
富士山(撮影:井村淳)

■夜、撮影するのが好きな理由

 ちなみに、富士山を満月とからめて撮る場合、撮影のチャンスは「年に12、13回しかない」と言う。

 当然のことながら、晴れていなければダメで、空気の透明度が落ちる春から夏にかけては撮影の機会が減る。

 さらに、「富士山と月がほぼ同じ明るさにならないと、きれいに写らないんです」。

 撮影時間が早すぎれば残照で富士山のほうが明るくなり、遅ければ月が明るくなりすぎてしまう。適切な明るさの時間帯に、山体と動いていく月の位置がうまく合う撮影場所を探さなければならない。

「月の方角を調べて、地図で見て、『ここからねらえそうだな』と、見計らって撮影に出かけるんです」

 ところが、「ここだろう」と当たりをつけて行ったものの、若干ずれていたりする。

「現地をウロウロしていたら、ほかにも撮りに来た人がいたから、『ここだな』ということもあります(笑)」

 富士山には多くのファンが撮影に訪れる。

「それでも昼間に比べれば、夜は人が少ないので、夜の写真を撮るのは好きなんです。人がたくさんいるところに行くと、ちょっと気後れしちゃうし。早くから場所取りもしなきゃいけない。いろいろと大変なんです」

 もちろん、「夜の光」そのものの魅力もある。

「観光で来るような人が目にする、ふつうの光ではないのが面白いかなと、昔からずっと思っていたんでしょうね」

乗鞍岳(岐阜県、長野県)撮影:井村淳
乗鞍岳(岐阜県、長野県)撮影:井村淳

■朝夕の風景は「出合い」

 ちなみに、夜間に写した作品は比較的「ねらって写した写真」が多い一方、朝夕の写真は「たまたま、というような場面がけっこう多い」。

 例えば、乗鞍岳・畳平(岐阜県)の草紅葉がオレンジ色に輝く作品。

「この直前まで土砂降りだったんですけれど、まあ、行ってみよう、と思って足を運んだら、ほんの数分だけ日が差してすごく劇的な場面になったんです。『雨だから』と、行かなかったら撮れなかったですね」

 手元に残している風景の作品を振り返ってみると、ある意味、「たまたま」撮れたものがかなりあるという。

「もちろん、ねらって撮りには行っていますけれど、それ以上のものと出合うこともありますし、逆に、ねらって行っても、そんな場面に出合わないことも多いです」

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「風景の人」だった時代