写真家・井村淳さんの作品展「小さな国の大自然」が7月2日から東京・目白の竹内敏信記念館・TAギャラリーで開催される。井村さんに聞いた。
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今回、作品の軸となったのは富士山で、凛とした白いすそ野の上に大きな月が浮かんでいる。
これまで井村さんというと、アフリカのサバンナで「動物写真を写す人」というイメージが強かったから、この作品を目にしたときは驚いた。
「小さな国の大自然」というタイトルを見て、てっきり日本の野生動物を写した作品だと思っていたのだ。
「写真展の内容を決めたのは2カ月くらい前。最近は月をからめて撮ろうと、富士山に通っているので、それをお見せするのであれば、日本の風景かなと。ぼくが風景写真を撮っていることは、あまり知られていないし、最近はほとんど発表していないですから、いい機会かな、と思ったんです」
■今回は「時間」で見せたい
展示作品は「撮影地域ではなく、撮影した時間帯で選んでいったもの」。
昼間に撮影した写真も少しあるが、「基本は薄暗い夕方の光から朝の光までの時間帯に写した写真」で構成している。
「キャプションにはあえて細かな説明はつけない。撮影場所と日付、何時何分だけを書いて、『時間』で見せていく。それが今回、ちょっとやりたいことなんです」
富士山に月を配した作品のほか、滝の写真もある。
煌々(こうこう)と照る満月の光で写したのは鹿児島県・屋久島の大川(おおこ)の滝。澄み切った紺色の空の下、100メートルちかい落差を白い水がダイナミックに流れ落ちている。
一方、厳冬期の新潟県で写した名もない滝は、たくさんのつららで覆われたように凍りつき、背景の薄暗い空には白い三日月が昇っている。
長野県軽井沢町の白糸の滝と秋田県にかほ市の元滝伏流水は夕暮れどきの青白い光で写したもの。
「日の入り後30分、日の出30分前くらいは青みがかった光が残ります。滝の水の白さに対して、その青みを持つ光が映える時間が好きなんです。月明かりで撮る場合は晴れていないとダメですけど、青い光の時間帯に写す滝というのは、どんな天候で撮っても、それなりに青みが出ます」