さて、消費者庁の方針、科学を参考に、私たちは「賞味期限切れ、いつまで食べられる?」をどう判断したらよいのでしょうか?
食品ロス削減推進室にも「この食品は○カ月保つ」という指針を出してほしい、という要望が来るそうです。「今後、検討してゆきたい」とのことですが、とりあえずは私たち消費者が自己責任で判断するしかなさそうです。
まずは、「どのように保存されてきたか?」を調べましょう。加工食品は必ず、保存方法が表示されています。流通段階も想像して、大きな問題がなく保存できていそうなら、消費者庁も用いた安全係数の考え方を適用します。製造後、1年の賞味期限を設定している製品であれば、10分の1をかけ算して1カ月強はメーカーが品質維持を確認しているはずです。私は、自分や家族が食べる分であれば、最後の2分の1のかけ算については省略してもよいのでは、と考えます。
賞味期限後の食べきる目安(月数)=賞味期限(月数)×1/10×1/2←省略は自己判断で
(【図表4】)
食品には製造日が書かれていませんが、各食品企業のお客様相談室で尋ねることができます。事業者も、消費者の参考になる情報を出しています。たとえば公益社団法人日本缶詰びん詰レトルト食品協会はウェブサイトで解説しています。賞味期限は、缶詰が製造から3年後、びん詰は半年~1年程度、レトルト食品は1~2年程度で設定されています。
●不安があるときは、思い切って処分も
食品や容器包装、保存条件による日持ちの違いは、それで1冊本がかけるくらい、多くの事例があります。しかも、事業者によっても衛生管理のレベルはまちまちです。
よく、「開封してみて五感で判断すればよい」という人がいますが、これも問題があります。食中毒につながる微生物は、腐敗を招く細菌とは異なります。五感では判別できません。
過去の深刻な食中毒事故など知れば知るほど、期限というのは深淵で、ちまたにあふれる「期限切れでも○カ月は食べられる」式の情報は出せなくなります。消費者庁の災害用備蓄食品に対する慎重な姿勢にも、なるほどとうなずきます。
「もったいない」と「食品ロス削減」を意識しつつも、安全を大切に。やっぱりまずは、賞味期限内に食べきる努力を。そのうえで、保存方法など不安がある時は、思い切って処分してもよいと私は考えます。
最後は四角四面の結論になりましたが、各種食品の事例を知れば、賞味期限の“深淵”と、検討の科学的根拠をもっと理解できます。そこで次回、さまざまな食品の期限にまつわる事例、エピソードをご紹介しましょう。
<参考文献>
消費者庁・[食品ロス削減]食べもののムダをなくそうプロジェクト
消費者庁・第3回食品ロス削減の推進に関する関係省庁会議(令和3年4月21日)
農水省・災害時用備蓄食料をフードバンク活動団体等に提供します!
公益社団法人日本缶詰びん詰レトルト食品協会
松永 和紀(まつなが・わき)/科学ジャーナリスト
京都大学大学院農学研究科修士課程修了。毎日新聞社の記者を経て独立。食品の安全性や環境影響等を主な専門領域として、執筆や講演活動などを続けている。主な著書は『効かない健康食品 危ない自然・天然』(光文社新書)、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同、科学ジャーナリスト賞受賞)など。