もったいないのですが、事情があります。備蓄食品は、国のお金で購入されており、物品管理法の下、賞味期限が切れるまでは大切な国の財産です。そのため、期限に余裕がある段階でだれかに引き渡すのは難しいのです。民間企業だと、賞味期限が十分残っている間に寄付しますが、国はそれができません。

 従来は、そのまま不要品となり、職員が食べる努力をしますが大半が廃棄されていました。2019年度からは、一部の組織で民間への「売払い」が始まりました。賞味期限にぎりぎりまで近づいたところで、売払いの公告が出され、最高価格をつけた入札者が購入し、格安スーパーなどに出回ります。

 でも、売払い不成立も目立ちました。公告から入札、落札者が決まり引き渡しまでに約1カ月かかることもあり、その間に賞味期限切れとなるものも。そのため、公告の際に賞味期限までの残存期間が2カ月を切ると、ほとんど落札されません。

 結局は、大半が廃棄されていました。廃棄にもお金がかかります。たとえば缶詰は廃棄するのに1kgあたり50~100円……。

●フードバンクも、「期限切れ」はお断り

 ならば、「賞味期限切れだけど、どうぞ」とフードバンク団体などに寄付すればよいのに……。だれでも、そう思いますよね。しかし、実は、多くのフードバンクや子ども食堂は賞味期限切れの食品を受け付けていません。

 格安スーパーで販売される場合、消費者が自己責任で購入し食べます。一方、フードバンク団体や子ども食堂では、食べるのは生活に困っている人や子どもたち。提供する側は、安全性や品質が不明確な賞味期限切れ食品を、「大丈夫だろう」と思っても責任を持っては提供できないので、「賞味期限切れの寄付はお断り」です。

 その事情はよくわかる。でも、5年も保存した備蓄食品を、わずか1日過ぎたからといって廃棄するのは、やっぱりどう考えてももったいない。活かしたい。だからといって、生活困窮者や子どもたちに、「はっきりしないけれど食べろ!」は、消費者保護をモットーとする消費者庁としては許されません。

●消費者庁は、検査に乗り出した

 災害用備蓄食品が原因で食中毒が起きた事例もあります。安全性の検証をおざなりにはできません。消費者庁はまず、5年備蓄された食品の検査に乗り出しました。

 同庁で2020年度に入れ替え対象となったのは、水(2リットル)408本のほか、無菌包装米飯やアルファ化米、ビスケットなど計1500食あまり。その中で、賞味期限が切れていた無菌包装米飯について、統計学的に適切な数をサンプリングして、登録検査機関に検査を依頼しました。

 本来当は、無菌包装米飯なら菌はいないはず。無菌状態の設備内で加工し殺菌した包装材で密封されています。とはいえ、完璧なゼロは容易ではありません。

 それに、加熱しても死なない細菌が自然界にはいます。高温になると「芽胞」という構造を作って身を守るのです。食品にも普通に含まれています。とくにボツリヌス菌などクロストリジウム属の菌は、芽胞を作った後に温度が下がり嫌気性の条件だと、増殖します。

 メーカーは、炊飯前の原料米の段階で芽胞を作る菌が含まれていないかなどサンプリング検査をし、問題がない原材料で生産加工するほか、完成した製品もサンプリング検査をしてチェックしています。だからたぶん大丈夫。でも、確認が必要です。

 そこで、一般細菌数、大腸菌群、クロストリジウム属菌を調べ官能検査も行いました。結局、無菌包装米飯の安全性や品質に懸念はありませんでした。

 消費者庁は、この結果を参考にして災害用備蓄食品の種類ごとに調べるべき項目を整理しました。これくらいの項目を調べておけば、保存がしっかり出来ていたか確認できるだろうという考え方を示したのです。

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