撮影:加藤俊樹
撮影:加藤俊樹

 入院直後は右半身がまひしていた。ベッドから起き上がれない状態だったものの、約1カ月後、リハビリ病院に転院するころには運動機能は歩けるまでに回復した。

 しかし、出血によって左脳にある言語をつかさどる部分が損傷し、「失語症」に。文字どおり、すべての言葉を失った。

■「伝える」アイテムが写真しかなかった

「最初、失語症だということが、自分でわからなかったんです。言葉が出ないので、電話できなくて。友だちに、病院に入っちゃった、みたいなことをスマホでメールしたら、何か変なことを書いてきたね、と返ってきた。そのときは家内に、やめなさいって、言われました。何も書けてないって」

 手足は動くようになったものの、会話ができない、筆談もできない、テレビの字幕も読めない。

「じゃあ、ぼくは何ができるの? と」

 そのとき思ったのが、「写真を撮らなきゃダメだってこと」だった。

「なんでそう思ったのか、わからないんですけれど。でも、写真だったんです。『伝える』アイテムがそれしかなかったからかもしれない」

 毎日、スマホで写した写真を病院からFacebookにアップした。

夫「でも、そこには何も書いてない。写真だけがアップされる」

妻「お友だちはそれであなたが生きていることがわかるという」

夫「そうそう。何だろうね、あれは」

「あっ、それは、写真日記ですね」と、私が言うと、「まさに!」(俊樹さん)。

撮影:加藤俊樹
撮影:加藤俊樹

■「きれい」「汚い」とか、関係なく

 入院中、瑞恵さんからコンパクトカメラを渡されたものの、「機能とかが(頭の中から)飛んじゃって」、使い方がまったくわからなかった。

 脳出血による「失行」という症状だった。テレビのリモコン、電子レンジも使い方がわからなかった。

 ところが、「なぜかスマホは使えて、Facebookにアップできたんですよ」(瑞恵さん)。

夫「そうそう」

妻「なんで、アップできたのか、お医者さんもびっくりして、『なんでそんなことができたの?』って」

夫「ぼくも知りたい(笑)」

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「褒められたい写真」だった