■オオカミの写真集との出合い
しかし、そもそもなぜ、そんな場所を撮ろうと思ったのか? きっかけは「夢のお告げ」だったという。1998年秋、大学4年の大竹さんはある夜、不思議な夢を見た。
「夢の中で木造の小屋にいたんです。窓から外を見ると雪が降っていて、木が並んでいて(ああ森だ)と思った。そこから大きい犬みたいなのがぱっと出てきて。こっちを見た。(あっ、オオカミだ)。で、目が合って、そのまま森に消えちゃう。ただそれだけなんです。そこで目が覚めたんですけれど、すごく鮮明にオオカミの姿を覚えていた」
オオカミのことが気になって、すぐに近所の図書館を訪ねた。動物コーナーを探すと、「そこでジム・ブランデンバーグのオオカミの写真集と出合ったんです。衝撃を受けました」。ジムは「ナショナルジオグラフィック」誌で活躍していた著名な写真家である。
「それはまさにぼくが夢で見たようなオオカミだった。森の中でオオカミが生きている姿、そういう世界を見てみたいなと思って。彼に弟子入りして、オオカミを最初のテーマにするのはどうだろう、と考えたんです」
大学時代に山登りをしていた大竹さんにはジャーナリストへの憧れがあり、自然の魅力をカメラで伝えたいと思っていた。同時に、何を撮るべきか、撮影テーマに悩んでいた。「そんなとき、夢にオオカミが現れた」。それをきっかけに、夢は一気に手触りのある現実感を帯びていく。
■3年間、オオカミの写真は一枚も撮れなかった
「ぼくの旅はイリーから始まりました」と、大竹さんは言う。
イリーというのはノースウッズの南端、ミネソタ州の小さな町で、ジムはここに住み、カナダ国境付近の森でオオカミを撮影していた。
99年5月、「最初にイリーを訪れたとき、(なんて地の果てまで来たんだろう)と、思ったんです(笑)」。けれど、そこがノースウッズのほんの入り口にすぎないことを知るのはずっと後のことだ。
ジムの弟子になることはかなわなかったものの、大竹さんはイリー周辺でオオカミの姿を追い求め始めた。
「現地に2、3カ月滞在して、日本に帰ってアルバイトして、お金をためて、また向こうに行って全部使う。それを繰り返して、3年通った」
しかし、結果は無残だった。「撮れているな」という実感はなく、オオカミを探す途中でほかの野生動物は少し撮れたものの、肝心のオオカミの写真は一枚も撮れなかった。
失意に打ちひしがれ、01年の暮れ、「『これでここには戻ってこないぞ』と言って、最後の旅をした。写真家の道は諦めた」。