島の上のウッドランド・カリブー。和名ではシンリントナカイと呼ばれ、1年を通して森で暮らし、湖上も難なく泳ぐ。まさに森と湖の世界、ノースウッズを象徴する野生動物である(撮影:大竹英洋)
島の上のウッドランド・カリブー。和名ではシンリントナカイと呼ばれ、1年を通して森で暮らし、湖上も難なく泳ぐ。まさに森と湖の世界、ノースウッズを象徴する野生動物である(撮影:大竹英洋)
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 写真家・大竹英洋さんの土門拳賞受賞作品展「ノースウッズ-生命を与える大地-」が4月27日から東京・新宿のニコンプラザ東京 THE GALLERYで開催される(大阪は5月27日から6月9日)。大竹さんに聞いた。

【大竹英洋さんの作品はこちら】

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 私は昔、「ノースウッズ」と呼ばれる北米大陸北部の森の片隅をカヌーで巡ったことがある。

 日本からアメリカ東海岸行きの旅客機に乗ると、カナダ上空を左上から右下へ斜めに横切るように通過する。眼下に広がるのは大海原のような濃い緑の針葉樹の森。湖が点々と見えるだけで、道はほとんどない。まるで変化がない景色の上を何時間も飛んでいく。それが大竹さんが撮影するノースウッズだ。

 最初、大竹さんのことを知ったとき、(無謀というか、よくこんな「撮れ高」の悪い場所に取り組もうと思ったものだな)というのが、正直な感想だった。

 動物写真家という職業は猟師のようなもので、自分の撮影フィールドを熟知し、そこに生息する野生動物の行動をつかんでいなければ成果は得られない。そう考えると、ノースウッズはあまりにも広大で、とらえどころがなく、ここで何かを撮影するのはとてつもなく難しいことが容易に想像できた。

 そんな感想を本人に伝えると、「はい、そうなんです。まさにそのとおり(笑)」。

冬の旅。朝日が昇ってくると、雪片が星のようにまばたいた。これから2週間、野営の道具や食糧を載せたソリを引きながら、野生動物を探す旅が始まる(撮影:大竹英洋)
冬の旅。朝日が昇ってくると、雪片が星のようにまばたいた。これから2週間、野営の道具や食糧を載せたソリを引きながら、野生動物を探す旅が始まる(撮影:大竹英洋)

■撮影開始から3年目、心が折れた

 20年ほど前、ノースウッズの撮影を始めたころ、大竹さんの夢は膨らんでいた。

「この地域をまとめた写真集は見たことがなくて、未知の世界というか、自分のフロンティアみたいなものを見つけたな、と」

 当時はなぜ、この地域をテーマとする写真家がほとんどいないのか、知る由もなかった。

「写真家として動物を撮って、生きていくということがどういうことか、まったくわからず、とにかく『オオカミに合いたい』『写真家になりたい』という思いだけ」が体を突き動かしていた。

 ところが次第に「撮るのが非常に難しい場所だということがわかってきた」。そして、撮影開始から3年目、心が折れた。

「これはダメだ、と。(ああ、ここを写真集にまとめるのは途方もないことだな。写真家になるのはとても無理だ)。そう、思ったとたん、ばーっと、すごい恐怖が襲ってきた。うつっぽい、というか、精神的にちょっとおかしくなった。こんなことでつまずいているようでは精神力的にも作家になるタマではないんだ、と思った。それがとてもショックで、いったんは写真家の道を諦めた」

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オオカミの写真集との出合い