今年を締めくくる写真家インタビューは初沢亜利さん。この夏、写真集『東京、コロナ禍。』(柏書房)を発売して以来、初沢さんを取材したメディアは50以上にもなる。ある意味、時代の寵児である。
実をいうと半年ほど前、私は初沢さんが写真集を発売すると知り、インタビューを申し込もうと思った。
ところが、表紙の写真を目にした瞬間、情けないことに、打ちのめされた気分になった。そこに写っていたのは公園の遊具。人の背丈ほど大きさの球形で、毒々しい青色のトゲトゲが突き出ている。あまりにも皮肉が効いていて、「よくぞ撮った」とは思ったものの、嫌悪感に負けた。
いまであれば冷静に見られるが、あのときの私は、30年近く編集に携わってきた「アサヒカメラ」が新型コロナの直撃を受け、休刊してしまい、かなりマズイ精神状態だった。
そんなわけで、初沢さんと会うことで気持ちに区切りをつけ、今年を締めくくりたかった。
右も左もみんなおとなしく自粛しちゃった気持ち悪さ
初沢さんに写真集の表紙を見てつらかったことを伝えると、「そうだったんですか、いちばん最初に来てくださいよ!」と言い、「ははは」。笑い飛ばしてくれた。背中を押してくれたようで、ありがたかった。
「そう思われるくらいなら写真集の『入口』としては大成功ですね。コロナの憎ったらしい感じが出ているわけで。この写真集には相当、皮肉を込めていますよ」
今春以降、新型コロナが深刻化すると、欧米では個人の自由をどこまで認めるか、もしくは、それをどこまで国家が統制するか、政治の場で議論となったと、初沢さんは言う。
「でもね、日本の場合、それがなかった。右に倣えで、みんな自粛してしまった。まず、それに対する皮肉があります。右も左もおとなしく自粛しちゃった。そのことへの気持ち悪さというか、抵抗感がものすごくある。それが今回撮り続けたいちばんの理由じゃないですか」
と話し、こう続けた。
「コロナ禍で日本という国の全体主義感がまる出しになった。それをいつか反省すべき、と思っているんですよ。そういう素材としての写真集でもある」
まったく、自粛することなく、躊躇することもなく
作品は、新型コロナに対する不安を抱え、外出の判断基準もあいまいな状況のなか、行動する東京の人々の姿を写し出している。
一方、「いつも自由とか、反権力とか言って新宿のゴールデン街で飲んでいた新聞記者、ジャーナリストたちが真っ先に消えましたから。会社、家族から、真っ直ぐ帰ってこいと言われたにしても、ぼくにはぼくなりの自由があるって、思うやつがいませんでしたね。そのことにはあきれかえりましたよ」
歯切れのいいもの言い。しかし同時に、初沢さんに跳ね返ってきそうな危うさを感じた。
それを伝えると、「いつも覚悟のうえですよ。もう、(2010年に)北朝鮮を写したころからいろいろと言われまくってきましたから」。
どうやら、インターネット上ではかなり叩かれたらしい。
「例えば、検索で『初沢亜利』って打ち込むじゃないですか。そうすると、『スパイ』『反日』『在日』とか、そんな感じでしたから」
でも最近は、「コロナ関連ばかりになってきて、すごくよかったなと(笑)」。
ちなみに今回、緊急事態宣言下の東京を撮り歩いたことについては、「まったく、自粛することなく、躊躇することもなく」。
その腹をくくった語りっぷりに迷いは微塵も感じられなかった。