「ややこしい話をシンプルに説明する人」や「瞬時に自分の意見を出す人」を見ると、多くの人が「この人は頭がいい」と感心する。なぜ「頭のいい人」は、いつでも「スジの良い意見」や「わかりやすい説明」ができるのだろうか。
会員数100万人超の「スタディサプリ」で絶大な人気を誇るNo1現代文・小論文講師が、早く正確に文章を読み、シンプルでわかりやすい説明ができる頭の使い方を『対比思考──最もシンプルで万能な頭の使い方』にまとめた。学生から大人まで「読む・書く・話す」が一気にロジカルになる画期的な方法で、仕事や勉強に使える実践的なものだ。
■自分の意見を言う訓練をしない日本の教育
日本の公教育では自分の意見を言う訓練をあまりしませんし、そもそも自分の意見と呼べるものを生み出す方法や「型」の学習がほぼありません。
本書の第3章で述べるように、バカロレアのために、論文の型、思考法の型を学ぶフランスとは対照的です。
教師が教科書を使って「正解」を講釈する一方通行の授業が明治時代以来、小中高の主流です。大学でさえ討論型講義は少数です。
一つの正解が用意された教育の仕方では、「自分で考える」よりも”覚える”こと”試験対策”が中心の学習になりがちです。この「正解」を教えることは、本書で力説する「思考の型」とはまったく別物であることに注意してください。
ノーベル物理学賞受賞者で、ユーモアあふれる科学エッセイ『ご冗談でしょう、ファインマンさん』の執筆者でもあるリチャード・ファインマン(アメリカ 1918-1988)によれば、覚えるべき「正解」を伝授する教育スタイルは「発展途上国の教育」です。
日本を代表する言語学者で慶應義塾大学名誉教授の鈴木孝夫(すずきたかお)さんも、『日本人はなぜ英語ができないか』と題する論考で同様の指摘をしています。
すなわち、明治維新後しばらくならまだしも、今日に至るまで、英米の文化や技術を紹介するような英語学習をつづけているからダメで、日本のことを語る英語、自分で思考したことを発信できる英語学習になっていないことが問題と語っています。
本来、学問にもビジネスにも社会問題にも環境問題にも、一つの正解は用意されていません。こういうものを「海図なき航海に旅立つ Voyage without the chart」と言います。
しかし、北極星が船乗りの導きになったのと同様に物事を考える上で指針になるものはあります。
私が本書で語ろうとしている思考の型は、「型」ではありながら一つの正解が用意できない事柄について、自分の意見と呼べるものを出す「型」なのです。
私は、大学受験の小論文や法科大学院(ロースクール)、司法試験予備試験のための教養小論文の指導において、自分の意見と呼べるものを生み出すアイディア発想法を構築し語ってきました。
小論文にも(もちろん大論文にも)一つの正答はありません。