●有効な対策は拍子抜けするほど「基本中の基本」ばかり

 ついで、「もやい」にアドバイスを提供している専門家の1人である谷川智行医師に、具体的にどのようなアドバイスを行っているのかを聞いた。

「一般的な“3密”を避けること、咳エチケット、そして消毒です」(谷川医師)

 拍子抜けするほど「当たり前」のことだけではないか。

「まず、支援者同士で感染させるようなことは、避ける必要があります。そのためにも、体調の悪い方は、活動に参加しないことが大切です。支援者の人数は減ることになりますが、これが大前提です。もしも相談に来られた方を感染させてしまったら、支援しているのか迷惑をかけているのかわからなくなってしまいます。また、活動全体も停止ということになりかねません。

 ですから、体調を含めて不安のある方には、参加しないでいただくようにしています。体調が良くないのに来られた方には、すぐ帰っていただくようにしています。実際に、何回かそのようなことがありました」(谷川医師)

 路上で行われている相談会に訪れる人々、その日初めて相談してみようとする人々に対しては、事前にマニュアルや対応を徹底するわけにはいかないだろう。

「相談に来る方にも、マスクを着けていただき、手指の消毒をしていただいています」(谷川医師)

 やはり、基本的なことだけだ。さらに谷川医師によれば、「屋外」という環境は感染予防において有利である。

「屋外では、3密の『密閉』はありません。リスクになり得るのは、接触です。そこさえ注意すれば、おおむね安全でしょう」(谷川医師)

 もともと路上生活の人々は、感染リスクが極めて低い。

「路上生活よりも“ドヤ”(簡易宿所)や大人数のシェルターの方が、ずっと危険です。無料定額宿泊所は、この機会に個室化してほしいです。厚労省も新型コロナ対応で事務連絡を発し、個室化を求めています。『この事態下だから』ということではなく、この機会に今後も個室化してほしいです」(谷川医師)

 今回のコロナ禍を乗り切れば、「それで良し」というわけではない。

「感染症は、これからも次々に来るでしょう。2000年以後、世界的に流行した感染症の多くはコロナウイルスによるものです。他にも、ウイルスは多数あります」(谷川医師)

 2000年からの1000年間は、世界規模の感染症との闘いが繰り返されそうだ。今回の新型コロナウイルスへの対応によって、人類は新しい感染症への対応を学ぶ必要がある。感染症との闘いは、今後も異なるパターンで繰り返されるからだ。これは、世界中の専門家の共通した見方である。

 根本的な解決法は、谷川医師によれば「人間が自然界に乱暴に入り込むのを止めること」である。その通りだろう。感染症との闘いは、生活のために自然破壊を余儀なくされる人々がいる現状を変え、気候変動に歯止めをかけ、災害リスクを減らすことと一体であるはずだ。

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「支援を止める」という 選択肢はない中での対策とは