●まずは「情報の貧困」を解決これからは熱中症の対策も
盛夏を控えた7月現在は、熱中症対策も重要な課題だ。チラシには熱中症対策についても記載されており、熱中症対策用の塩入りタブレットが留められている。炊き出しや相談会などに訪れた人々は、まず「衛生キット」を手にする。順番を待っている間に中を見て、タブレットを外して口にすることが多い。そのときに、チラシを読むことが多いそうである。チラシの内容に加えて、読まれるための配慮も怠っていない。
「コロナ禍で活動を中止することは、全く念頭にありませんでした。私たちが行っている活動は、医療相談も生活相談も炊き出しも、すべて命をつなぐものです。止める選択はありません」(武石さん)
活動を止めない以上は、感染症対策を十分に行う必要がある。対策は、「3密」の回避と支援者側のリスク管理に加え、「ボランティアの人数を可能な限り減らすこと」「配布した食糧をその場で食べないよう、炊き出しから弁当の配布へと形態を変えること」「並ぶときは2メートル以上の距離を空けて」であった。
またしても、拍子抜けするほど基本的なことばかりだ。しかし結果として、その基本的なことの積み重ねによって、活動の安全性が維持されてきた。
●もともと路上生活者のマスク着用率は高かった
「世界の医療団」が当初から心がけてきたことの1つは、支援者「が」ウイルスを持ち込まないようにすることだった。具体的な対応は「自らの健康管理をする」「話すときは必ずマスクを」「手指を消毒する」といったことだ。
「活発な経済活動をする人たちは、『密』になることも多くなるので、感染する確率は、路上の方より高くなります」(武石さん)
感染対策の中心となった西岡誠医師は、コロナ禍に対する世の中の恐怖心が、「自分が感染させられる」という方向に偏っていることを危惧する。
「路上生活の方々は『3密』になりにくく、新型コロナウイルスに感染するリスクは高くありません。また、排気ガスや粉塵から喉を守るため、パンデミック前からマスク着用率が高いことも、有利に働いたと思います。しかし、高血圧、肺気腫、糖尿病など基礎疾患を持つ人が多いため、感染した場合の重症化リスクや死亡リスクは高いです。われわれ支援者が、路上生活者に感染させないための対策は重要です」(西岡医師)
夏季には、マスクの弊害もある。
「夏場は、マスクによる熱中症のリスクがあります。『道を歩いている時や、周囲に人のいない場所では、マスクを外す方が良い』と伝えています」(西岡医師)
様々なリスクがある中で、誰もが限られた資源を活用して対応しなくてはならない。厳しい状況にある人々ほど、対応の難易度は高くなる。
西岡医師は、日本の現状に関して、世界各国の感染拡大地に比べれば、「今のところは、感染者数も死亡者数も抑えられている」という。日本の「3密」の効果は世界で評価されており、WHOが「3C」として採用したばかりだ。中でも最も効果があるのは、ソーシャル・ディスタンスを保つことであるという。
ともあれ、基本的な対策は十分に有効だ。感染者数に一喜一憂せず、日々の感染対策を積み重ねることが、自分自身と大切な人とを守ることになるだろう。
(フリーランス・ライター みわよしこ)