■キメ顔がないからこそ、映画に色彩が与えられる

 門脇は演じるうえで常に「これで大丈夫かな」と確かめることを怠らない。同時に大切にしているのは「作品の一部になること」だと言い切る。

「体に役が馴染(なじ)んできて、現場とのいい関係性が作れて、ああ、いますごくいい空気感のなかで、やらせてもらっているな、というときがあるんです。もちろん役への愛情は大事ですけど、自分がこういう役をやりたい、とかよりもその空気を感じられることが一番の喜びです」

 前出の白石は門脇を「共闘関係が築ける女優」と評する。

「麦は女優として“映画の一パーツになる”ということを理解している。作り手に寄り添ってくれる感じがあって心強いんですよね。そういう俳優は決して多くない」

 他の監督の作品に出演する門脇を観ては「ちくしょう! こんな顔を見せたのか!」と悔しくなることもしばしばだ。

「キメ顔がないというのは、いろんな顔を見せられるということ。それが映画に色彩を与えてくれるんです」

 ドキュメンタリー映画「“樹木希林”を生きる」で樹木は役者について、こう言っていた。

「役者って本当は、顔がわかりにくいほうがいいのね。絵に描きにくいのが」

 そう、それなのだ。大河ではどんな顔を見せるのだろう。似顔絵を描かれる役者になっていくのだろうか。新たな章が、もうすぐ始まる。

(文中敬称略)
   
■かどわき・むぎ
1992年 アメリカ合衆国ニューヨーク州で生まれる。
 97年 5歳で日本に帰国。公民館のバレエ教室に通いだし、のちに岸辺バレエスタジオで岸辺光代に師事。バレエ漬けの日々と同時に読書にもハマり、小学校時代は図書館にある本をほぼ読破した。特に偉人の伝記が好きで、印象に残った言葉をノートに書き出していた。中学受験時はイアン・ソープ著『夢はかなう』がバイブル。
2006年 14歳でバレエの道を断念。何かを表現したいとギターを買って作詞作曲をしたこともある。高校時代に宮崎あおいや蒼井優の出演する映画を見て「映画に出てみたい」と俳優を決意し、高校卒業を前に芸能事務所に履歴書を送る。
 11年 テレビドラマ「美咲ナンバーワン!!」(NTV)の生徒役でデビュー。その後、現在の事務所ユマニテに所属。
 14年 映画「愛の渦」に主演。同作や「闇金ウシジマくん Part2」「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」の演技で第6回TAMA映画賞最優秀新進女優賞、第88回キネマ旬報ベスト・テン「個人賞」新人女優賞、第36回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。
 15年 連続テレビ小説「まれ」(NHK)に出演。映画、舞台、ドラマ、CMへの出演が相次ぐなか、急性喉頭蓋炎で入院し、1週間で復帰。
 16年 映画「二重生活」で単独初主演。ミュージカル「わたしは真悟」に高畑充希とダブル主演。
 17年 映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」主題歌「REBORN」を発表。
 18年 日曜ドラマ「トドメの接吻(キス)」(NTV)に出演。エランドール新人賞を受賞。映画「止められるか、俺たちを」に主演。
 19年 映画「チワワちゃん」「さよならくちびる」に主演。第61回ブルーリボン賞主演女優賞、第41回ヨコハマ映画祭主演女優賞、エルシネマアワード2019エルベストアクトレス賞を受賞。
 20年 1月から大河ドラマ「麒麟がくる」(NHK)でヒロイン・駒を演じる。2月11日から東京芸術劇場プレイハウスで、舞台「ねじまき鳥クロニクル」に出演。

■中村千晶
1970年、東京都生まれ。新聞社の契約記者を経てフリーランスに。雑誌やウェブを中心に映画記事や人物インタビューを手がける。本欄では増原裕子、深田晃司、キムラ緑子、奥山由之などを執筆。

AERA 2020年1月13日号

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