■バレエ漬けの小学生時代、努力をしても差が埋まらず

 今回取材したクリエーターたちが異口同音に言う言葉だ。「気になって仕方がない」「また一緒に仕事したくなる」、そして「いつも、顔が違う」。

 たしかに門脇には「キメ顔」がない。初めてスクリーンで見たときからずっとそう感じていた。黒目がちの瞳も、予想外に透き通った可愛らしい声も、個性的で強い印象を残すのに、作品によって角度によって顔が違う。実際、左右で顔の骨格が違うのだ、と門脇は笑う。

「自分がこう映りたい、とかがないんです。あんまり鏡も見ない。もちろんコンプレックスはたくさんありますよ。もっと可愛くなんないかなあって。でもバレエをやっていたとき、足の甲が出ていなかったので、出すためにめちゃくちゃ練習したら『足の甲がキレイだね』と褒められるようになった。その経験からも、それはそれ、と思って努力すれば、何かしらカバーされるのは実証済みなんです」

 受け答えは快活で的確。一介の取材記者にも胸襟を開いてくれるような錯覚に陥る。でも人に触れさせない“絶対領域”の強度も人一倍堅そうだ。

「止められるか、俺たちを」の監督・白石和彌(45)は「二重生活」の監督・岸善幸と一晩中「門脇麦のどこがいいのか」を語り合った、と笑う。そんな俳優は、そういるものではない。なぜ、こんなにも彼女に惹(ひ)きつけられるのか。

 門脇は1992年、ニューヨークで生まれた。株関係の仕事をしていた父(56)の転勤のためだ。アウトドア好きの両親は「まっすぐに育つように」との意味を込めて「麦」と名付けた。4年後に弟が生まれるまで、ニューヨークで暮らした。「自分だけ違う色」ということを子どもながらに感じていたという。そしていつも何かに我慢していた。

 強烈に残っている記憶がある。4歳のときだ。弟の出産で母が入院し、門脇は友人の家に預けられた。初めて親と離れて、不安でいっぱいだった。

「生まれたよと父が迎えに来てくれて、病室に行ったんです。母は『麦、さみしくさせてごめんね。おいで』と言ってくれた。でも私はヘンに強がっちゃって『行かない』って。入り口で微動だにしないので、父が仕方なく連れて帰ろうとエレベーターに乗せた。扉が閉まったとたんに、号泣したらしいです。そういう感じは、いまも変わっていない気がします」

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