■カメラ映えする表情に衝撃を受けた三浦大輔

 しかし演技は素人。畠中は自らワークショップで門脇に教えた。俳優は自分のなかに起こる形にならない感情を、形にして外に出してあげる作業だと門脇は言う。そこには「渡し道」のようなものがあり、そのスイッチを入れる、ギアチェンジのような作業が必要だ。しかし何かがスイッチを抑えていた。考えた末にいきついたのが、4歳のとき母の病室の前で我慢した、あの記憶だった。

「自分の感情に蓋をする筋肉を鍛え過ぎていたんです。そこをはずさないとダメだなと」

 3回目のワークショップで変化が起こった。泣くシーンではなかったのに、いきなりワッと泣き出して止まらなくなった。

「社長の声や目に、ものすごく安心したんです。『出して、いいよ』と言われている気がして、それまでため込んだものがブワッとあふれ出した」

 感情のストッパーがはずれた瞬間、渡し道のギアチェンジのコツが、つかめた気がした。感性や感情と思考の両輪が少しずつまわりはじめた。

 映画「愛の渦」の話がきたのはそんなときだ。さまざまな事情を背負った人間たちが性を解放できる場に集まって自分の話をする。舞台版を見ていた畠中は最初は躊躇(ちゅうちょ)した。が、映画としてうまく昇華されれば、エロスだけではなく、いとおしい人間賛歌になるかもしれない。そう考え、何も言わずに門脇に台本を読ませた。返ってきた答えは「おもしろいです。人間が描かれているから」。20歳にしてそこまで読み込める門脇に「これはいける」と感じ、オーディションを受けさせた。

「私は思考型であると同時に、すごく欠落しているところがある。正直、あまり深く考えていなかったと思います。冷静に考えたらやっぱり怖かったんですけど、あのときは『うぉおおお!』って突っ込んでいったところが多分にある」(門脇)

 実は性的なことは苦手で、映画でもそうした描写を見るのが得意ではなかった。両親も当然のごとく反対した。それでも門脇は挑戦を選んだ。

 監督の三浦は、オーディションで「彼女しかいない」とピンときたという。だが演技はまだ殻に閉じこもっている。セリフ出しも役の掘り下げも足りなかった。

「1週間あげるから、役について考えてきてください」。その1週間でガラッと変わった。セリフに感情がのっていた。

「驚いて『何をやったんですか』って聞いたんです。そうしたら『自分のなかの性欲というものに逃げずに向き合ってみました』と。信頼できる、任せられる、と感じました」

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