国内外の人々を惹きつけてやまない京都。その四季折々の魅力を、京都在住の人気イラストレーター・ナカムラユキさんに、古都のエスプリをまとったプティ・タ・プティのテキスタイルを織り交ぜながら1年を通してナビゲートいただきます。愛らしくも奥深い京こものやおやつをおともに、その時期ならではの美景を愛でる。そんなとっておきの京都暮らし気分をお楽しみください。
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■不老長寿の菊慈童伝説、重陽の節句を暮らしに取り入れ、楽しむ
草むらから届く虫の声が、耳に心地よく響きはじめる季節。朝方の空気が少しひんやりとし、秋の訪れを感じます。少し早く起きて朝の鴨川沿いを歩くと、野花にはしっとりと露がおり、陽の光に照らされ輝いて見えます。
平安時代、宮中では中国の故事により、菊におりる露には不老長寿の力があると伝えられてきました。9月9日「重陽の節句(ちょうようのせっく)」の前夜に、菊の花に真綿をかぶせ、翌朝その露や香りを含んだ綿で身体を清めると、長生き出来るとされ、その風習は現在まで脈々と受け継がれています。嵐山の法輪寺には、菊のしずくから霊力を授かり700年も少年の姿のまま生きたという中国伝来の菊慈童(きくじどう)像が祀られ、重陽の節会では菊を供え、菊酒がふるまわれます。今回は、五節句のひとつであり「菊の節句」とも呼ばれる「重陽の節句」を暮らしに取り入れつつ、京の風情と初秋の味を楽しむ時間へご案内します。
■美しい京町家でいただく初秋の味 宝石のような葡萄の琥珀流し
1885(明治18)年創業の京菓子店「大極殿本舗」。美しい京町家である六角店の中に一歩入ると、明治時代より使い続けているという菓子箱や調度品、和菓子の図案など、あちこちに遊び心が散りばめられています。併設された甘味処「栖園(せいえん)」で通年味わえる「琥珀流し」は、宝石のように輝く寒天に月替わりの自家製の蜜をかけていただくお菓子です。口に含んだ途端、ふわり、とろり…その口どけの良さと喉越しの爽やかさに驚くばかりです。
9月は、初秋の味覚「葡萄の琥珀流し」。色の美しい甲州の赤葡萄だけを絞って作られる甘い蜜、寒天の上には葡萄のゼリーがのせられ、トッピングにはグリーンレーズン。3つの違う食感を楽しめるように工夫されています。甘味と爽やかさが癖になり、何度でも味わいたくなる琥珀流し。10月は栗と小豆、11月は柿など、季節ごとに旬を堪能出来るので、1年分12の味を全制覇するべく、足繁く通いたくなります。