■お酒好きが通う酒器工房の器で 菊酒を風流に味わう
鴨川のほど近く、京町家にて作家のご夫婦二人で営まれている「酒器 今宵堂」。大切な人や一人でしっぽりとお酒を味わう「呑む、ひととき」のための酒器を二人三脚で作られています。徳利、盃、肴のための小皿などがぽつりぽつりと並んでおり、奥の工房の様子も垣間見える空間で、お話を伺いながらゆっくりと酒器を選ぶことが出来ます。すっきりとシンプルな器の中には、クスッと笑える遊び心が感じられる小物もあり、親しみと温もりを感じます。
重陽の節句に味わう「菊酒」は、本来は菊の花を漬け込んで作ったものだそうですが、菊の花びらを浮かべ味わうのも良いそうです。粉引高台片口にお酒を注ぎ、花びらを浮かべ、“遊女からの恋文”と言われる「天紅(てんべに)の盃」で長寿を願い味わう…何とも風流で大人の節句に相応しい時間です。
■知れば知るほど奥深い 水引から生まれるアート作品
水引はご祝儀袋や贈り物に掛けるもの…という概念しかわたしにはなかったのですが、京都を拠点に活動をされている水引作家の森田江里子さんの作品に出会って、水引への感じ方が一変しました。水引とは、和紙の紙縒り(こより)に糊を引き、乾かし固めた飾り紐のこと。水のきれいな京都では古来より和紙文化が栄え、御所を中心に水引は人々の暮らしに欠かせないものだったそうです。水引の色の左右、濃い薄いなど、すべてに意味や思いが込められ、知れば知るほど奥深さを感じます。色数豊富なこの水引を画材のように自由に使い、普段の暮らしを思わず笑顔にしてくれる作品に、どんどん引き込まれていきました。
重陽の節句には、呉茱臾(ごしゅゆ)という強い香りの実を赤い袋に入れ身つけたり、飾ったりし、無病息災、不老長寿を願うそうです。節句飾りの下部分は、この茱萸袋(ぐみぶくろ)を表しているとのこと。菊の花の飾りと共に一年毎に飾って楽しめる水引作品です。