■京都市電は環状運転がお家芸
四条河原町から繁華な四条通りを東に歩くと、鴨川に架かる四条大橋が見えてくる。鴨川を渡ると、南東方向に京阪電気鉄道/京阪線の四条駅が視界に入ってくる。ここでは、四条通りを走る京都市電と京阪線が平面交差する電車ファン垂涎のシーンが見られた。
別カットは京阪線との交差を終えて四条河原町新京極に向かう1系統千本今出川行きの市電500型だ。背景は桃山意匠の「京都四条南座(以下南座)」の伽藍だ。南座は鉄骨鉄筋コンクリート五階建てで、白波瀬工務店の設計施工により1929年に竣工している。いっぽう、市電518は1928年の梅鉢鉄工所製で、共に昭和初期の旧き時代を髣髴とさせてくれる一コマとなった。
市電の四条線は1972年に廃止されたが、南座は1996年に登録有形文化財に指定され、近年、耐震補強工事を実施して新開業している。同一場所で約400年間も歌舞伎興行を続けてきた「日本最古の劇場」といえる。
四条通りをさらに東に進み、緩い坂をのぼると「祇園さん」の通称で親しまれている古刹「八坂神社」の西楼門が見えてくる。四条通りはここで東大路通りと合流する。四条線はこの祇園停留所が起点で、双方向に分岐する東大路通りには東山線が敷設されていた。
碁盤の目のように道路が配置された古都を走る市電の運行は、循環系統がお家芸のように多用されていた。1系統(壬生車庫前~祇園~百万遍~千本今出川~壬生車庫前)を筆頭に4系統、6系統、7系統、8系統、11系統の六系統が循環系統だった。
循環系統の始発地点では、営業所の操車係から見て右に進行する市電を「甲」と呼び、左に進行する市電を「乙」と呼んでいた。1系統を例にとると壬生車庫を右手に出て、祇園方向に進む市電が1系統甲。左手に出て、千本今出川方向に進む市電が1系統乙になる。地元在住の畏友から伺ったエピソードだ。
世界にはトラムを観光に活用する都市は多い。美しい町並みを見ながらゆっくり移動できるのは、暗闇を走り抜く地下鉄と違って、観光都市の「粋」でもある。1978年に市電を全廃させたのは、人と環境にやさしい観点からも惜しまれる。こうして当時を振り返り、「もしも今、京都に路面電車があったら」と思うだけで、なんだか心が躍る。
■撮影:1975年11月22日
◯諸河 久(もろかわ・ひさし)
1947年生まれ。東京都出身。写真家。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経てフリーカメラマンに。「諸河 久フォト・オフィス」を主宰。公益社団法人「日本写真家協会」会員、「桜門鉄遊会」代表幹事。著書に「都電の消えた街」(大正出版)「モノクロームの東京都電」(イカロス出版)などがあり、2018年12月に「モノクロームの私鉄原風景」(交通新聞社)を上梓した。
いまの「京都」は観光客が増えすぎ? 古都の足として市民に愛された44年前の路面電車
路面電車がみつめた50年前のTOKYO
AERAオンライン限定
2019/08/10/ 07:00
(3/3) 1ページ目に戻る
暮らしとモノ班 for promotion
2024年の『このミス』大賞作品は?あの映像化人気シリーズも受賞作品って知ってた?
著者プロフィールを見る
AERAオンライン限定に関する記事
あわせて読みたい
あなたへのおすすめ
カテゴリから探す
ニュース
池上彰×佐藤優「トランプ政権下の日米関係」対談 米国「関税10%」はったりか本気か
AERA
1時間前
教育
〈いい夫婦の日〉父親が育児や家事を「自分ごと」にできるには? 北欧の夫婦に学ぶヒント
AERA with Kids+
1時間前
エンタメ
〈いい夫婦の日〉ラミレスの妻・美保さんが語る3男1女“にぎやか”子育て 「たまにはカップラーメンの日があったっていい」
AERA with Kids+
1時間前
スポーツ
松山英樹をまた“勧誘”? 人気面で大苦戦「LIVゴルフ」次なる手は…新リーグの未来はどうなる
dot.
15時間前
ヘルス
「寿命を決める臓器=腎臓」機能低下を示す兆候5つ ダメージを受けてもほとんど症状が表れない
東洋経済オンライン
18時間前
ビジネス
〈見逃し配信〉「下請けでは終わりたくない」町工場で募らせた思い アイリスオーヤマ・大山健太郎会長
AERA
11/22
教育に関する最新記事
光浦靖子、50歳で単身カナダ留学 不安は「飛行機の間くらい」「ゼロ点経験できてよかった」〈酒のツマミになる話きょう出演〉
日本とハワイでそれぞれの専門分野を研究 子育てもしながら日々を生き抜いてきた戦友
知らないことを「ググる人」は時代遅れ…東大教授が毎日使っている「無料で高性能の検索サービス」
12月“お宝”株主優待は早めに! 実質利回り5%でQUOカードも 約250銘柄保有する“優待弁護士”に聞く
本当に頭のいい人が「会議の前」に絶対すること・ベスト1