日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介するこの連載。蛤を使ったオンリーワンなラーメンでミシュランガイドの星を獲得した店主が愛する一杯は、一度袂を分かったはずのお店を立て直した、真っすぐすぎる男のラーメンだった。
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■ミシュラン一つ星のラーメン店主が「海外」にこだわる理由
東京都内の厳選されたレストラン・飲食店を紹介する「ミシュランガイド東京」。2014年発行の「ミシュランガイド東京2015」にラーメン部門が設立され、現在3つのお店が一つ星を獲得している。
昨年初めて一つ星を獲得したお店が、新宿御苑前駅近くにある「SOBAHOUSE 金色不如帰(こんじきほととぎす)」 である。
蛤をメインに使い、3つの寸胴で別々に炊いたスープを丼で合わせたトリプルスープが特徴だ。3種類の“味変ソース”をスープに溶くと、複雑な旨味が押し寄せる。ラーメンファンだけでなく食通をも唸らせる一杯は、文句なしの一つ星に選ばれた。06年にオープンしてから13年越しの快挙だった。
店主の 山本敦之さん(45)は、もともとミシュランの星獲得を目指して、ラーメンの道を突き進んできた。念願の一つ星を獲得したことで、海外から出店依頼も殺到。今年に入ってからは、シンガポール空港最大のショッピングモール「ジュエル」内にシンガポール4号店を出店。6月には、カナダのトロントに2号店をオープンした。日本・カナダ・シンガポール合わせて7店舗を経営。そのうち日本店は一軒だけと、今やグローバルなラーメン職人だ。今後も日本はもちろんのこと、海外でも常にクオリティーの高いラーメンを提供できるよう努力していくつもりだ。
山本さんは海外の食材を使いながらも、日本に負けない美味しいラーメンを仕上げることにチャレンジしている。
「日本と同じ味を持っていっても、上手くはいきません。現地の人たちの味覚を理解し、それに合わせた味づくりをすることが求められます」(山本さん)
ラーメンだけではなく、日ごろ現地で食べられている料理を食べ、その国で「美味しい」と思われているツボを掴んでいく。「金色不如帰」のラーメンの絵柄を壊さずに、どう中身を現地に合わせていくかが腕の見せ所だ。
山本さんが海外にこれほどこだわるのは、ラーメンの世界的な可能性を追求していきたいからだ。06年にお店をオープンして以来、とにかくラーメンというジャンルの中で、何かの第一人者になりたいと思って革新的な取り組みを行ってきた。
自分が海外でできることを考えたときに見えた答えが、「清湯(ちんたん)を世界に根付かせる」ことだった。海外では、あっさりとした清湯よりも、豚骨や鶏のこってりした白湯(ぱいたん)系のスープが主流だ。「金色不如帰」のラーメンは清湯でありながらも、奥行きと深みのあるスープが自慢だ。これを根付かせることができれば世界のラーメンが変わる。そう考えたのだ。