国内外の人々を惹きつけてやまない京都。その四季折々の魅力を、京都在住の人気イラストレーター・ナカムラユキさんに、古都のエスプリをまとったプティ・タ・プティのテキスタイルを織り交ぜながら1年を通してナビゲートいただきます。愛らしくも奥深い京こものやおやつをおともに、その時期ならではの美景を愛でる。そんなとっておきの京都暮らし気分をお楽しみください。
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■しみじみと春の景色を感じる、花天井
背中に感じる陽の光がポカポカと温かく、右京区嵯峨広沢池辺りのあぜ道に小さく花を覗かせた野花の姿に、春の喜びを感じます。ここからさらに高雄方面へ車を走らせると、山深く鹿の気配を感じるほどのどかな風景に。静かなこの梅ケ畑の地に、平安初期、空海が創建した京都で最も古い八幡さま「平岡八幡宮」があります。
室町期に焼失後、足利義満公によって再建、永きにわたり修復を重ね、1827(文政10)年、画工・綾戸鐘次郎藤原之信により描かれた本殿内の44枚の花絵(花の天井)。厳かな空間の中で、しみじみとした趣のある花絵を見上げていると、「ああ、私はこの花が好きだな」と思ったり、初めて知る花の名前から花絵を探し当ててみたりと、時を忘れ、首が痛くなるまで眺めてしまいます。
■白玉椿伝説と、「月光」と「日光」に一目惚れ
椿は、平安時代より長寿、招福、吉兆の木として愛されており、白玉椿は茶花としてふさわしい花と言われています。境内には、珍しい種類の椿があちこちにたくさんあり、その数は200種300本。社務所の庭に、清楚で神秘的な姿がいつまでも印象に残る樹齢200年の「しだれ八重白玉椿(一水椿)」があります。
故事によると「願い事をすると白玉椿が一夜で花開き、願いが成就した」という記述があり、白玉椿伝説と呼ばれているそうです。ふとひとつの椿に目が止まり、本物かどうかと自分の目を疑うほどでした。その椿の名は「月光(げっこう)」と「日光(じっこう)」。花の中央は、まるで人の手により折紙を幾重にも繊細に折り重ね、細工を施した様にも見えます。初めて目にする不思議なこのふたつの椿に一目惚れだったのです。