一方で母親が一生懸命に栄養バランスを考えて料理を作っているのに、娘がまったく食べないという家庭もある。小学生のときは食べていたのに、中学生から食べなくなり、高校に入学した今も同様である。いったい何を食べているかというと、お菓子だそうである。父親が会社からの帰りに必ずケーキやお菓子をたくさん買ってくるので、それを食べてお腹を満たしている。娘の生理が止まってしまったので、母親が夫にお菓子を買ってくるのはやめてと頼んでも、聞く耳を持たない。父親はお菓子は食べずに、母親が作った料理を食べているのにである。父親は娘がお菓子を買ってくる自分に懐いているのがうれしいらしく、毎日、お菓子を買い続けている。娘をかわいがっているようでも、父親は自分のことしか考えていない。理解できない家庭が多すぎるのだ。

 私は農山漁村文化協会が版元の全都道府県の「食」が網羅されている「日本の食生活全集」のなかの『聞き書 東京の食事』と「聞き書 ふるさとの家庭料理」の『第18巻 日本の朝ごはん』が大好きで、折に触れて手に取っている。前者には私が子供の頃に食べていた食事がずらりと並んでいてとても懐かしいし、後者にはまだ各家庭に「食生活」がきちんとあった時代の、日本全国の一般的な朝ごはんが紹介されている。この県ではこんな朝ごはんを食べていたのかととても興味深い。しかしその一方で、あまりの塩分の多さには驚かされたけれど。

 便利、裕福になったおかげで、日本人の食生活は急変した。昔は食卓は食事のマナーや箸の持ち方、それらを学ぶ場所でもあったし、親も好き嫌いに関しては厳しかった。それと同時に思い出が作れる場所でもあった。今は基本的な食生活を維持している家庭もあるけれど、何も考えていない家庭が多いのも事実だ。食に神経質すぎるのも困るが、売られているものは毒じゃないから何を食べても大丈夫と、栄養バランスを考えない食べ方をする人たちもいる。それぞれの家庭には他人が立ち入れないルールがある。しかし人間の体は食べ物で動いているのだから、その点は頭に入れておいたほうがいいと思っている。

※『一冊の本』2018年6月号掲載

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