実は、監督の増田玄樹さんはLGBTsのことを全く知らなくて、テレビ業界の専門用語だと思っていたとか。「ドキュメンタリーを撮りたい」と相談したら即答でOKしてくれたのに、ですよ。途中で気付いたけど怖くて私には言い出せないから、こっそりインタビュー相手に相談したそうです。「実は何も分かっていない。何から勉強すればいいですか」と聞いたら、「知らないならそのまま撮って。ほとんどの人が知らないんだから」と言われたんですって。後で聞かされてびっくりして、爆笑しました。


「色んなことが見えてきて面白い」と笑顔を見せた(撮影/写真部・掛祥葉子)
「色んなことが見えてきて面白い」と笑顔を見せた(撮影/写真部・掛祥葉子)

――LGBTsの関心が高まる一方で、そっとしておいてほしいと感じている方もいますよね。そこの葛藤はありませんでしたか。

ないですね。「東さんがLGBTsと発言するたびに分断される」と言われることもあって、その通りなんです。そもそもカテゴライズする必要もないし、LGBTsという言葉がいずれはなくなればいいと思っています。でも、今の日本には便宜上必要です。言葉が広まり、理解が深まる一方で誤解や偏見で「絶対に認めない」「生産性がない」という人との分断は大きいです。

「生産性がなければ人として価値がない」という考えは世代連鎖だと感じています。「頑張らなければいけない」「役に立たなければいけない」という刷り込みが強いから、とても生きづらくなってしまった。杉田水脈議員の「LGBTは生産性がない」という発言は、子孫繁栄という意味での生産性を達成していて、そこを頑張ったから認めてほしいのだと思います。でも、生産性という言葉に引っ張られてはいけなかった。本来は個が大切にされなければいけないのに、社会の役に立つか立たないかで議論が進んだことがとても恐ろしいです。戦後の優生思想に通ずると思います。

――映画館での上映はポレポレ東中野(12月22日~28日)が決まり、すでに試写や上映会で観た方からの反響もあります。不安はなかったですか。

出演者、LGBTsの皆様の反応が一番怖かったですね。「LGBTsの団体でないのにどうして作るんだ」と疑問視していた当事者の方からも「良かった」と言ってもらえて、ホッとしました。「モヤモヤしないLGBTsの映画を初めて見た」という言葉も嬉しかったです。説教臭い映画にはしたくないし、誰かのせいにするのではなく、見た人が考えられる映画にしたいと思って社会批判や政治批判の言葉はカットしました。

この映画は追撮、再編集して、希望する小中高に無償配布もします。2年前に文部科学省から学校でLGBTsに配慮するよう通達がありましたが、どうすればいいか分からず現場の先生も困惑しているそうです。当事者の声をつむいだドキュメンタリーが勘違いや偏見を取り払って、何かを考えるきっかけになればと思っています。

――タレントの方が社会的な活動をすることを批判する人もいます。

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