eumoの加盟店が集まったマルシェには、宮城県のお茶屋や副業でお菓子作りをしている人の店が並んだ。現在200店舗程度の加盟店が1万店にまでなれば、その中で生活が完結できると考えている(撮影/東川哲也)
eumoの加盟店が集まったマルシェには、宮城県のお茶屋や副業でお菓子作りをしている人の店が並んだ。現在200店舗程度の加盟店が1万店にまでなれば、その中で生活が完結できると考えている(撮影/東川哲也)

■共感により循環するお金 「共助の財布」になり得る

 eumoは一見、私たちが日常的に使っている電子マネーに似ているが、いくつか特徴がある。一つは現地でしか使えないこと。ニセコ町で始まった「e旅納税」ではふるさと納税をすると、返礼品としてNISEKO eumoがもらえるが、町内でしか使えないので町の人と交流するきっかけになる。

 もう一つの特徴は「貯められない」ことだ。使える期間は約3カ月。失効前に使ってもらうことでお金を循環させ、地域経済を活性化する狙いがある。期限が切れたeumoは各地域で、地域課題の解決や子どもたちのために使われる。ギフトという機能もあり、定価に「ありがとう」の気持ち分を上乗せして払うこともできる。

「お金には2通りの使い方がある。少しでも安く買いたい、お金さえ払えばいいんだろうという使い方は関係を切ってしまう。eumoは地元のお店を応援したい、こんなサービスを作ってくれてありがとうという共感を表現するお金。『共感コミュニティ通貨』と呼ぶ方がしっくりきます。関係性が生まれるとお金は循環します。失効したeumoはそんな思いの詰まった通貨だから、『公助』や『自助』だけでは抜け落ちてしまう『共助の財布』としても使えます」(新井)

 08年に世界中を経済危機に陥れたリーマン・ショック以降、資本主義の限界が叫ばれて久しい。コロナ禍の景気刺激策によって富はさらに一部の富裕層に集中し、上位1%の富裕層が世界全体の個人資産の4割弱を保有する。新井は貯めずに循環させる通貨によって、拡大し続ける格差を少しでも縮小させる流れを作ろうとしている。

 だが、かつては富めるものの資産をいかに増やすかという金融資本主義の世界にどっぷりと浸(つ)かっていた。バークレイズ・グローバル・インベスターズという世界最大の資産運用会社で、約10兆円を運用するチームの一員として。新卒で就職した日本の銀行で直面した「声の大きい人が勝つ」という非合理な意思決定に嫌気が差して転職したからこそ、「投資はサイエンス」だとする金融工学の合理性や美しさに心酔していた。

 充実感の半面、一瞬の判断ミスで数百億を失う世界。時差のある海外との仕事で眠れない日も続いた。久しぶりの休暇で海外に向かう飛行機の中で倒れた。体中に膿(うみ)を持った湿疹ができ、痛みで歩くことすらできず休職した。医師からは「ストレス性の難病だから仕事を辞めるしかない」と言われ、好きだったスキーの指導員にでもなるかと思っていた時に、リーマン・ショックが起きた。

 バークレイズ時代の合言葉は「金融的束縛からの解放」。顧客にリターンをより多く返すことによって自由になってもらう。お金があるからこそ自由になれるのだと確信していた。

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