多くの人が指摘しているように、日本海岸に林立している原発にミサイルを撃ち込まれたら、相当数の国民が犠牲になり、国土の相当部分は半永久的に居住不能になる。それがわかっていながら政府は原発稼働・新設に前のめりである。サプライチェーンが途絶する以上は、食糧増産やエネルギーの戦略的備蓄をとうに始めていなければならないはずだが、何もしていない。
何より戦争をする気なら、国論の統一と挙国一致体制の構築が急務のはずだが、政府は支持率30%以下に低迷している内閣の閣議決定だけで重大事を決し、70%近い内閣不支持の国民の言葉には耳を貸す様子がない。
ここから推理できるのは政府とメディアが「戦争が近い」と煽(あお)り立てるのは国内向けのプロパガンダだということである。失政から国民の目をそらし、政権延命をはかるために「戦争カード」を切ってくるとは、君らは正気を失ったのかと言う他ない。
内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数
※AERA 2023年1月-9日合併号