昭和のプロ野球史を彩った名選手たちの雄姿は、私たちの脳裏に深く刻まれている。そんな名選手たちに、長い野球人生の中で喜びや悔しさとともに今も思い出す、忘れられない「あの一球」を振り返ってもらった。全4回の短期集中連載でお届けする第1回は、ミスタータイガース・掛布雅之さんに聞いた。(宇都宮ミゲル)
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一九八五年四月十七日、甲子園で生まれた伝説について語るプロ野球ファンは、いまだに多い。タイガースファンならずとも刮目せざるを得ないほど衝撃的なシーン。そう、ランディ・バース、掛布雅之、岡田彰布(あきのぶ)のバックスクリーン3連発だ。相手は宿敵巨人、しかもマウンドにはエースの槙原寛己が立つ場面。阪神はクリーンアップの3人が続けざまに強烈な打球をバックスクリーンへ叩き込んだのだ。このシーズンは阪神が三十八年ぶり(1リーグ時代からの換算)の日本一をその猛爆打線によってもぎとったこともあって、かの3連発はチームの迫力を最も象徴した場面として我々の脳裏に刻まれた。とりわけ掛布のファンであれば、この四番打者のキャリアにおけるピークは一九八五年の3連発だった、と考える向きも多いだろう。あるいは、一九七八年のオールスターゲーム第3戦を、掛布という打者が最も輝いた瞬間だとするファンもいるかもしれない。三番打者としてセ・リーグのクリーンアップに名を連ねた弱冠二十三歳の掛布は、四番・王貞治、五番・田淵幸一といったホームランアーティストを差し置き、三打席連続でアーチを達成。そのボール運びの巧さに、後の大活躍を予見したファンは少なくなかった。
■レジェンドはとびきりの笑顔とともに
こうした数々の名シーンを回想しながら少々の緊張とともに本人を待っていると、拍子抜けするくらいの明るさでミスタータイガースが登場した。端的に言うなら、底抜けの笑顔。現役時代の打席で見られた、硬く集中した表情とは真逆である。まずはホームランへのこだわりについて聞こうと質問を投げかけたところ、こんな答えが返ってきた。