麺は平打ちの手もみ風(筆者撮影)
麺は平打ちの手もみ風(筆者撮影)

「弁当屋をやっていなかったら確実につぶれていました。一日1万円の赤字を出していましたからね。そもそも、ラーメンに全く詳しくなく、みそつけ麺を最初に注文したお客さんに『スープ割りをください』と言われ、その瞬間にスープ割りが必要だということを知ったぐらいでした。常識のないままお店を始めてしまったんです」(大野さん)

 メニューを何種類も作ったり、営業終了後には残ったスープも混ぜてみたりと正解を探し続けた。少しずつ味のブラッシュアップをしながらギリギリのところでお店を維持。3年目にブロガーの投稿とツイッターで火が付いて、徐々にお客さんが増えてきた。特に「鶏ポタつけ麺」が人気となり、これが大野さんの代表作となる。

「失敗の期間が長すぎる分、他店の味の研究などインプットの量はハンパではないことになっています。でも、パクらないのが私の信条です。あくまでお客さまに伝わる味なのかを意識しながらお店とメニューを増やしてきました」(大野さん)

喜九家/東京都青梅市今寺5-18-49/[平日] 11:30~14:30(L.O.)、[土・日・祝] 11:00~スープ切れまで/月曜定休※祝日の場合は営業。詳細はお店のTwitter(@wwwwinaka)にて/筆者撮影
喜九家/東京都青梅市今寺5-18-49/[平日] 11:30~14:30(L.O.)、[土・日・祝] 11:00~スープ切れまで/月曜定休※祝日の場合は営業。詳細はお店のTwitter(@wwwwinaka)にて/筆者撮影

 今では5店舗を経営するオーナーとなった大野さん。お客さんのいない期間が長すぎたからこそ、お客に寄り添ったラーメンが作れるのだ。

「呉田」の中野店主は大野さんを“天才”と評する。

「大野さんは各地のラーメンを食べ歩き、その味をインプットし続ける探求心の塊のような人です。特にスープ作りについては天才。名店のスープを何でも再現できるぐらいの腕を持つすごい人です」(中野さん)

 大野さんは中野さんを弟分としてかわいがっている。

「うちのお客さんが教えてくれて『呉田』に食べに行きました。今では腐れ縁のような関係です。『呉田』の麺は本当においしい。うちの店でも『呉田』の麺を使ってコラボさせてもらっていますが、麺がうますぎてそれに合わせるスープを作るのが本当に大変です(笑)。ファンも多いですし、良いお店作りをしていると思います」(大野さん)

 常に新しいものを取り入れながらも自分の味を追い求める中野さんと、お客さんに伝わる味かを常に意識する大野さん。時代に合わせてブラッシュアップすることに変わりはないが、目線がブレないからこそそれぞれのラーメンがおいしくなり続けるのだ。(ラーメンライター・井手隊長)

「喜九家」店主の大野喜久さん。イタリアンや和食の経験もある(筆者撮影)
「喜九家」店主の大野喜久さん。イタリアンや和食の経験もある(筆者撮影)

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