役所広司(中央)、菅田将暉(右)、森 七菜(撮影/写真映像部・高野楓菜)
役所広司(中央)、菅田将暉(右)、森 七菜(撮影/写真映像部・高野楓菜)

■同じ父親として共感

──本作は、賢治を囲む「家族愛」が主要なテーマの一つだ。一方で、明治から大正は、まだまだ家父長制が色濃く残っていた時代。現代の家族関係と比べて、違いを感じる部分も多かったのでは?

役所:うーん、でもまあ、やっぱり家族ですから。表現の仕方は違うかもしれないけれど、自分よりも相手のことを大切に思う関係性は、今も昔も変わらないと思います。自分の子ども(賢治)が生み出した作品を評価しない世間に苛立ちを覚えるところなんかは、同じ父親として共感できましたよ。厳しいことを言いながらも、心の中では応援しているっていうね。

菅田:僕はすごく納得できましたね。政次郎については資料が少なくて創作の部分も多いと聞いていますけど、柔軟さと、ある意味での甘さというか、隙が多いところは賢治とそっくりだし(笑)。だからこそ、良くも悪くも常識を外れることのできる親子だったのかなと思います。

森:二人をそばで見ていて、「お互いがあってこその自分」ということを二人ともよく理解しながら生きているような気がしました。かけがえのない存在って、こういうことなのかもしれないなって。

■今だけにとらわれない

──「私が宮沢賢治の一番の読者になるじゃ!」という言葉通り、政次郎は、生前全く評価されなかった賢治を献身的に支え続けた。俳優も同じく、表現者であれば「他人からの評価」は免れないが、どのように受け止めてバランスをとっているのだろう。

役所:難しいですよね。良い評価と同じくらい、嫌いな人もいるはずですし。だからやっぱり最後は、自分が納得できるものをつくりあげていくしかないと思うんですね。賢治もそうですけど、今は評価されなくても、社会や時代が変わることで周りの見方が変わることだっておおいにあり得るわけです。それは救いでもあり、恐ろしさでもある。だから「今だけに心をとらわれないようにしたほうがいいんじゃない?」とは思いますけどね。

森:最終的には仕方のないことなのかなって思います。自信がなくても評価されるときもあれば、頑張っても届かないときもある。そういう自分ではコントロールできない、曖昧な人間の目があるから、お芝居には正解がないし、観る人も楽しんでくれるのかなって。

菅田:うわ、いいこと言うなあ!

役所:まとまったねぇ!

森:いやいや……(笑)。

菅田:でも本当にそうかもね。僕は評価されることにあんまり興味がなくて。むしろ現場でつくっている時間のほうが好きなんです。酷評されたとしても、その人のことをよく知らないと、何でそう思われたのかも理解できないし。でも現実的には、全員のことを理解できる時間もタイミングもないわけですよね。だから表現することのモチベーションは、やっぱり一緒につくる人にあります。こうやって現場に行くと役所さんや森さんがいて、監督がいて、カメラマンがいて。皆と話し合いながら一つのものをつくる手応えを感じられるところが、役者の醍醐味だと感じますね。

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