菅田:なんでしょうね、賢治の「知りたい!」っていう気持ちの強さって。そこに理由があるのかどうかもわからないですけれど。エスペラント語を学んだり、チェロを演奏したり。見たことのないものや面白そうなものがあれば、すぐに飛び込んでいく。結果的にそれが、日常の生活や労働に美しさを見いだした「農民芸術」につながっていったのかもしれませんが。最終的には、より豊かな人生を送るためにやっていたんでしょうけど、なんでしょうね、賢治の根本にある“渇望感”というか……。
■人への深い愛情で動く
役所:母親のイチが、幼いときから「人様の役に立つ人間になりなさい」って賢治を育てているんだよね。妹のトシも、病に倒れて看病を受ける自分の体の弱さを悔やんで、「生まれ変わったらもっと人の役に立ちたい」って言っている。だから宮沢家の子どもたちは、そういう利他心みたいなものが根っこに染みついているんじゃないかな。
菅田:劇中で原稿を書くシーンがあるんですよ。実際に賢治の直筆原稿のコピーが残っていて、それを見ながら何回も書いたんです。その文字が丸っこくて可愛くて(笑)。何十枚と書いているうちに、文字自体がアートのように感じられてきました。殴り書きの部分でさえ美しくて、「やっぱり底抜けに清らかな部分があったんだろうな」って思いました。僕は、賢治ほど美しくピュアに人の幸せを願える自信はないけど、世の中にあるものは誰かの人生の時間や労働のうえに成り立っているわけで、そういうことは演じていてすごく考えましたね。
森:私が演じたトシも尊敬するところばかりで、正直「自分とは似てない部分のほうが多いな」って思っちゃいました……(笑)。ただ強いだけじゃなくて、愛情深くて、柔らかさもある人。
──死期が近づき錯乱した祖父の喜助を正気に戻すために、思い切り平手打ちする場面もある。
森:あそこは「本当にいいんだよね?」って何度も脚本を確認しました(笑)。でも相手をねじ伏せたいわけじゃなくて、賢治と同じように人への深い愛情で動いている。行動の一つひとつにちゃんと意味があって、どれも“トシらしさ”を感じるんです。他人のために自分が正しいと思うことができるのは憧れますね。