映画「銀河鉄道の父」が5月5日から公開される。詩人・宮沢賢治の生涯を、父親の政次郎を中心とした家族との交流から浮き彫りにした本作。演じた3人は、作品の奧にどんな賢治の素顔を見たのか。AERA 2023年5月1-8日合併号の記事を紹介する。
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──「甘ったれ」。
原作者の門井慶喜は、賢治の性格を一言でこう表す。作品は繊細かつ深遠だが映画では、そんなイメージとは程遠い、賢治の奔放さや弱さが遺憾なく描かれていた。
役所:やはりイメージは少し変わりましたね。作品を読んだときに、宮沢賢治という明治から昭和にかけて生きた、ひとりの人間の言葉として読めるようになったというか。
菅田:僕も演じるまでは「教科書に出てくる人」「歴史上の人物」というイメージが強かった。でも、演じるにあたって『春と修羅』を読んだら印象が変わりました。賢治は「心象スケッチ」と言ってますけど、人間臭い、心が揺れ動く部分を垣間見られた気がしましたね。
森:私も「学校の教材」としてのイメージが強かったんですけど、改めて賢治の作品を読んでみて「こんなに面白かったんだ!」って。本人や家族の人柄を知ることで、作品の読み方や深みも全然違ってくる気がします。
■とても相性のいい二人
──「銀河鉄道の父」では、父・政次郎の視点から賢治の人間性を描いた部分が随所に登場する。政次郎の目から見た賢治は、わがままで、頑なで、たまらなく気になる存在だ。
役所:明治時代は我が子であっても、病人を看病するのは「不浄だ」と言われ、父親がやることではないとされていたそうです。にもかかわらず、賢治が赤痢にかかったとき、政次郎は真っ先に病院に看病に行ったという史実が残っています。そういう意味では、政次郎は特殊な父親だったんでしょうね。世間体よりも「賢治のそばにいたい」という気持ちが強かったんだと思います。「こいつが動くところをずっと見ていたい」というかね(笑)。
──政次郎の思いを知ってか知らずか、賢治は家業を拒んで農業学校に進学したり、人造宝石の事業を発案したり、宗教にのめり込んだりと、やりたい放題だ。
役所:作中では賢治に振り回されっぱなしで、正反対のタイプのように見えます。けれども政次郎にとっては、とても相性のいい子どもだったんじゃないかなあ。厳格そうに見えて隙だらけの政次郎は、賢治が心配で構わずにはいられない。賢治はそういう父のことを知っていて遠慮なく政次郎に甘えていたのかもしれません。宮沢家に生まれてこなければ、あんなに洒落た文学は生まれてこなかったかもしれない。