炭谷さん自身、仕事をする上で自らの価値観を模索し続けた。
大学院修了後、外資系コンサルティング会社のマッキンゼーに就職し、コンサルタントとして働いていたが、視野を広げたいと思い、海外勤務を志願。家族とともにデンマークに移り住んだ。そこで娘が受けた個性や自立を伸ばすデンマークの教育に感銘を受け、帰国後に退職、教育の道を志したという。
自分が今いる環境を変えることは多様な価値観に気づき、その中で自分の価値観は何なのかを考えることにつながると炭谷さんは言うが、すぐに環境を変えられない人はどうしたらいいのだろうか。
「おすすめは対話することです。我々が行っている『探究ナビ講座』では、3、4人のグループを作り、自分の過去を相手に話したり、自分が今まで何を大事に生きてきたのか、インタビューを受けたりするワークをやっています。聞き手はあくまで共感し、良いところを伝えてあげます。すると語り手は自己肯定感が高まり、自分自身が大切にしてきたもの、つまり自分の価値観に気づくことができます」
■思考の枠を外すワーク
それでは、「自分なりの解を見つけていく学び」とは具体的にどういったものなのだろうか。炭谷さんが学長を務める神戸情報大学院大学でこの3月に修士課程を修了した官野明子さん(48)に話を聞いた。
官野さんは、研究機関で事務職をしていたが、周りの研究者たちの活動に刺激を受け、「私も何かを生み出してみたい」という憧れから仕事を辞め、大学院の門をたたいたという。
「授業は想像以上にハードでしたが、大学院の授業は今まで私が受けてきた学びとは全く違うものでした。世の中にたくさんある課題の中から何を選び出し、その課題にどうアプローチしていくか、先生や仲間と対話を重ねながら詰めていきます。『現実で起こり得ないけど、こんなことがあったら楽しいよね』ということを考え、思考の枠を外させるワークもあり、新鮮でした」
最終的に、小さい子どもでも図書館で自発的に絵本を探すことができる「絵本探索システム」を完成させ、「探究実践賞」を受賞した。